09-02 迷走する夢は動き出す

「さてアリシア殿、そなたのアレクとリオンを結び付けたいという企み儂も協力しよう、何せ事はこの国の行く末に関わる事だからな⋯⋯で、具体的な方法は決まっているのか?」

 そんなラバンの問いにアリシアは特に考えずに答える。

「特に何も、ただやりたいってことだけ決めてその許可を貰いたかっただけだから、方法についてはまだ何も」

 そんなアリシアを放置せずにここへ連れて来て相談する場を作った事は正解だったと、フィリスは思った。

「そなたの事だから城で舞踏会でもやれと言い出すのかと思ったが?」

「舞踏会はこの前フィリスの誕生日でやったばかりだし、それにアレク様がただそこで踊っただけのリオンを結婚相手にすると言い出して、それで周りは認めるの?」

 アリシアは物語のお約束が現実になるわけがないと思っている。

「兄様はそういう事を言わないわ」

「アレクがそんな馬鹿を言い出したら、ぶん殴るな」

「儂も絶対止めるな⋯⋯」

「⋯⋯やっぱりお話はお話って事ですよね」

 それを理解してくれているアリシアに、王族一同は一先ず安心する。

「そうだな、正式な手順としては王国会議で今後の国のあり方の指標として「アレクの妻にはゾアマンのエルフから取るべきだ」と、議題に上がる事からかな」

「なるほど⋯⋯それ議決されるんですか?」

「七対三くらいで可決されると言ったところかな? おそらく」

「そして今のゾアマンの有力者の中で、一番適していると言えるリオンが候補に上がるわけだ」

 ラバンとセレナリーゼの説明にアリシアは考え込む。

「その流れで私が介入するところ、ありますか?」

「はっきり言ってないな。 それにこの問題におおやけに口を出せば、アリシア殿は政治に口出ししないという建前を破る事になるしな」

「そう言えばそうでしたね⋯⋯どうしよう」

 やりたい事はあるのにやり方がわからない、そんなアリシアにフィリスが話す。

「アリシア目的を見失ってない? アリシアの望みは兄様たちが無味乾燥な政略結婚から素敵な恋愛結婚に変えることでしょ?」

「なるほど、じゃあ結婚の切っ掛け自体は王様たちに任せて、その後の二人の関係を後押しする方針でいけば⋯⋯」

「いいんじゃない? それでただそんな事を画策しているのがバレた時点で台無しになるから、絶対バレない配慮が必要だけど」

「もちろん、ほんの少し後押ししてもアレク様にその気がないってわかれば、そこで辞めるよこの計画は」

「アリシアがそれを理解しているなら、私も協力するわ」

「ありがとう、フィリス」

「まあリオンはいい子だし⋯⋯兄様にも幸せになって欲しいからね」

 そんな感じでアリシアとフィリスの目的は一致した。

「ところでラバン、アレクの婚約者候補は他に居るのか?」

 そのセレナリーゼの言葉にアリシアは気づく、王太子のアレクに婚約者がいないはずはないと。

「確定はしていないがそうだな、ノワール公爵令嬢辺りが最有力だな」

「ネージュ様か⋯⋯納得ね」

「知っているのフィリス?」

「当然でしょ、この国の貴族の公爵令嬢のネージュ・ノワール様なんだから」

「どんな人?」

「私より二つ年上で兄様より二つ年下の、今の若い世代の社交界の主役ってとこね」

「フィリスよりも?」

「私は王族だから社交界とは少し距離を取っているのよ⋯⋯疲れるし」

 何となくアリシアはそのネージュのイメージを考える。

「意地悪だったりするの?」

 それはアリシアの持つ偏見や今からやろうとする事に、その方が都合がいいから出た願望だった。

「どうなのだラバン?」

 セレナリーゼは最近まで社交界とは無縁の生活だった為、その辺りの事に詳しくなかった。

「ネージュ嬢に悪い噂など聞いたことはないな。 品行方正、清廉潔白、まさに完璧な貴族令嬢だと聞いている」

 それを聞きアリシアはやや困る。

「もしかしてアレク様、その人と結婚した方が国の為にはいいの?」

「かもしれんな⋯⋯だが欠点はないが利点もない、リオンと結婚すれば問題もあるが利点も多い」

 要するにローリスクローリターンの令嬢と、ハイリスクハイリターンなリオンという図式だと、アリシアは感じた。

「アレク様が二人とも妻にする、一夫多妻はありなの?」

「確かにこの国の法では一夫多妻を禁じてはないが、あまり好き好んでする貴族はおらんな」

 そのラバンの答えは、アリシアにとって意外なものだった。

「なんか意外ですね⋯⋯もっと権力者は女性を侍らすのが好きなのかと思っていましたが」

「権力者だからかな、多くの妻を持ちそれぞれに子をもうければ次の世代には家の権力は分割される、王家だってそうだ、最悪国が割れる原因になるからだ」

「だからアリシア殿、そういう権力者は大抵多くの女性を侍らす時は愛人として囲うのが一般的なのだ」

 そんなラバンとセレナリーゼの説明に納得しかけたアリシアはふと思い出す。

「ならオリバー大統領は? 確か妻が十五人もいるんでしたよね?」

 そのアリシアの疑問にラバンはふと笑みを浮かべる。

「あいつの場合は世襲制ではない共和国大統領だからな、それに妻を持った時にはまだ一介の商人に過ぎなかった、おそらく次の世代で血のつながらん義理の息子たちに事業を振り分け、今ほどの権力はなくなるだろうな」

「そうなのですか?」

「ああそうだ、そんな馬鹿げた決断をしたあいつは商人としてどうかと思うが、そんなあいつだからこそあそこまでの成功を収めたのかもな」

 アリシアは思い始めた、こんな事に関わるべきではないのかもしれないと、物語はあくまで物語であり現実は簡単ではないのだと。

「アリシアやっぱり止めておく? この計画を」

 どうやらそんなアリシアの迷いは、フィリスにはお見通しのようだった。

「その方がいいのかもしてないとは思い始めている⋯⋯でもやっぱり物語の魔女みたいな事をしてみたい気持ちはあるんだ」

 そんなアリシアにセレナリーゼの叱責が飛ぶ。

「アリシア殿、そなたの力は強大だその気になれば大抵の事は押し通せるだろう、だからこそ迷いがあるような事はしない方がいい、成否にかかわらず大抵後悔するぞ」

 そんな言葉をアリシアはしっかりと受け止める。

「そうですね、もうしばらくは様子を見ようと思います、そして本当に応援したいと思った時少し手助けする機会が来るのを待ちます」

「それがいいだろうな」

 結局アリシアはここへきて相談した事は無意味だったのかもしれない。

 しかしアレクとリオン、この二人が結ばれても構わないとの言質は得たのだった。


「今後のアレクの予定は、聖魔銀会の会議に参加するだったな」

「ああそうだ、それがどうかしたかセレナリーゼ?」

 その答えにセレナリーゼはニヤリと笑いながら話し出す。

「聖魔銀会はギルドも一枚噛みたい案件だろう、そこで私がリオンを連れて行くのはどうだ?」

「不自然さはないのですか?」

「ポーション一つ満足に買えない駆け出し冒険者ほど、聖魔銀会には加入すべきではないかな?」

「なるほど⋯⋯」

「そしてその会議に、魔の森のギルマスの私が一人くらい助手を連れて行っても構わんだろう」

「そうやってリオンとアレク様を会わせようとするんですね⋯⋯フィリスどう思う?」

 フィリスは母の企みを考えながら答える。

「うーんどうかな? でも兄様はやりにくいだろうな、母様を他人扱いしながら会議をするなんて」

「儂なら御免だな、そんな会議は⋯⋯だが、だからこそリオンの不自然さをかえって気づかせなく出来るかもしれんな」

「前にアレク様はギルドを巻き込んだ方が聖魔銀会にはいいと言っていました、だから私の方からアレク様に「今度の会議にはセレナさんを連れて行けば」と、言えば⋯⋯」

「不自然さは、かなりなくなりそうね」

「頼めるか、アリシア殿?」

 そんなセレナリーゼにアリシアはきっぱり答えた。

「もちろんです。 だって私が始めた、私のやりたい事なんだから」

 こうしてアリシアの夢は、王国の運命を巻き込み動き始めたのだった。

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