08-09 合流

 エルフィード王国国王のラバンに、自分の森の祝福の儀とサンドラの葬送の儀が無事終了した事をアレクは伝えた。

「よくやったぞアレク」

 ラバンは一回り大きくなって帰ってきた息子を誇りに思った。

「ではラバン、私はこれで行かせてもらうぞ」

「何? セレナリーゼ、今日は泊っていかんのか?」

「ああ、もうじき魔の森は忙しくなる、早く準備をしておかないとな」

「そうか⋯⋯頼んだぞ、アリシア殿もよろしく頼む」

「はい、わかりました王様、それにアレク様も」

「アリシア殿、母をよろしくお願いします、母上もお元気で」

「ああ、一段落したらまた来るさ」

「じゃあフィリス、またね」

「失礼します皆様方」

「うん、アリシアもミルファちゃんもまたね!」

 こうしてアリシアとミルファとセレナリーゼは慌ただしく、城を後にする。

 そしてまだ馬車に監禁し隠してあるリオンを回収して、魔の森へとアリシアの転移魔法で移動する予定だ。

「さてアリシア殿、向こうへ行く前に念押しして置く、向こうでは私はセレナだ、いいな?」

「ええ、わかってます」

 アリシアに習いミルファも一緒に頷く。

「それからもう魔の森の前には冒険者ギルド支部の仮設が終わり、そこではそなたの両親がもう働いている、彼らとの関係をどうする? 隠すか?」

「⋯⋯隠したくありません、もし私の事で両親に危害を加えようとする者が居ればそれなりの報いを絶対にします」

「わかった、どうなるかわからんがその意志を尊重し災いは事前に摘み取るよう善処する⋯⋯だが邪な者が近づくのを試す撒き餌となるぞ、お前の両親は」

 ピタッとアリシアの足が止まりセレナリーゼを見つめる。

「アリシア様、ご両親の安全や余計な問題を起こさない為には、隠しておいた方が良いと思いますが⋯⋯」

 セレナリーゼとミルファの助言は正しいとアリシアだって思う、しかし⋯⋯

「⋯⋯少し話し合ってみるよ、父さんと母さんに」

「そうするといい」

 そうアリシアに接するセレナリーゼは優しそうで、母親なのだと感じさせるとミルファは思った⋯⋯だからミルファはこの人を警戒はしていても、嫌いにはなれなかった。

「えっと連れて行くのはリオンだけでいいの? 他にはもういないのセレナさん?」

「ああそれでいい、会計士のゼニスもすでに護衛の騎士と共にもう向こうに着いている頃だからな」

 そう話しながら歩いていると、さっきまで乗ってきた馬車が見えてきた。

 そしてセレナリーゼは遠慮なく馬車を開き、その中で項垂れているリオンに話しかける。

「出ろ! 出発だリオン」

「⋯⋯はい」

 全てを諦めきったリオンは素直に出てくる、既にセレナリーゼの調教は始まっているらしい。

「セレナさん、リオンに何をさせる気なの?」

「この子はエルフだ、しかも単独で夜間哨戒をこなす森のエキスパートだぞ、役に立つに決まっている」

「彼女を冒険者にするのですか?」

 そんなミルファの質問にセレナリーゼは答える。

「いや、あくまでギルドの職員として偵察などやってもらうつもりだ」

「そうですか⋯⋯リオンあらためてよろしく、私が銀の魔女アリシアこれから向かう魔の森のあるじだ、何か困った事があったら力になるよ」

 アリシアにとっては半ば趣味で始めた冒険者ギルドの開設だが、こうして多くの人が動き関わっているため、ある程度の責任は果たすつもりではあった。

 そんなアリシアを見つめるリオンは本能的に見抜く、この魔女は味方になってくれる人だと。

「はい、よろしくお願いします! 精一杯務めさせて頂きます!」

 その命綱を掴んで離さないという決意がアリシアの手を握る力に、そしてこれまでにないハッキリとした声になっていた。

 そんなリオンをみてセレナリーゼはきちんと磨き上げれば光る逸材だと、リオンを認めているのだった。

 たとえ自分が悪役となって嫌われたとしても、リオンがアレクやアリシアを信頼し成長するならそれでいい、それがセレナリーゼの考えだった。

「では皆さん、魔の森へご招待します」

 芝居がかかった言い方でアリシアは転移魔法を起動する、そして四人は魔の森の前のギルド支部建設予定位置へと跳んだのだった。


 アリシア達がやって来た時には仮設本部は出来ており、そこでは既に職員が働いていた。

「今戻ったぞ!」

 そのセレナの言葉にギルドの中の人物、アリシアの両親のアルドとルシア、そして会計士のゼニスは振り返る。

「お帰りなさいませギルドマスター」

 三人はそう言ってセレナ達を出迎えた。

「これは銀の魔女様、ミルファ様もようこそ、冒険者ギルド魔の森支部へ」

 ゼニスはセレナの後ろのアリシアにも気づくと、そう礼をする。

「ありがとうゼニスさん、それに⋯⋯あなた達も」

 複雑な表情で自分たちを見つめるアリシアに、アルドとルシアは色々と察する。

「ゼニス、ちょっと向こうで話がある⋯⋯リオンお前も来い」

「はい」

「わかりました」

 そう奥の部屋へと向かうセレナは一瞬アリシアと目が合う、今のうちに話し合っておけという事なのだろう。

 そして周りに誰も居なくなったことを確認したアリシアは、両親に話しかける。

「さっきはごめん父さん母さん⋯⋯二人が親だって事、隠しておいた方がいいってセレナさんに言われて」

「アリシア様のお父様とお母さま申し訳ありません、これは私たちが言い出した事なんです、余計な問題が起こらないようにするために、お父様とお母さまに危害が及ばないようにするためにって」

 そう両親に頭を下げるミルファの肩に優しく手を乗せ、アリシアは言う。

「私は何があっても父さんと母さんを守るつもりだけど、そもそもバレなければ安全って言われると納得もしている、だから後は気持ちの問題なんだ」

 そんなアリシアにアルドは優しく話す。

「アリシア、私達はお前の成長を望み親である事を放棄した。 しかしそんなお前が私達を親と呼んでくれて、そう育てて下さった森の魔女様にどれだけ感謝している事か」

「アリシア私達は貴方の成長を今からでも近くで見守れるならそれでいいの、決してあなたの邪魔にはなりたくないわ」

 父と母の思いを受けて一先ずアリシアはこの関係を隠す事を決意する。

「わかった、一先ず伏せる事にする。 それで父さんと母さんが安全なら」

 しかしいつか堂々と出来るようになればと思うのだった。


 アリシアと両親の打ち合わせが終わり暫くした頃、外が騒がしくなった。

「誰か来たのでしょうか?」

 ミルファがそんな事を言っていると奥の部屋からセレナ達が出てきた。

「どうやら誰か来たようだな」

 そして全員で外に出て出迎えるのだった。

 そこには警備兵たちに囲まれた二台の幌馬車が止まっている。

 その周りに居る人物たちはアリシアも知った顔だった。

「来たか⋯⋯お前たちが一番乗りだな」

 そう言ってセレナも歓迎する。

「んっ? ⋯⋯あんたはセレナか? あんたも選ばれたのか」

 そうザナックはセレナに訊ねた、しかし――

「私は冒険者ではない、このギルドのギルマスだ」

「あんたがギルマスだって!」

 駆け寄ってきたカインは驚く。

「⋯⋯つまり訳アリだったって事だな、あんたは」

「まあ、そういう事だ」

 当然の様な態度でセレナは答えた。

 それを見てザナックもカインも納得する。

 そもそも女のソロで特Bランクという方がおかしかったのだ、何らかの事情のある人物に決まっている。

 そしてそれをこれ以上詮索するほど、二人は愚かでも未熟でもなかった。

「あらためてよろしく頼む、〝ウロボロス〟リーダーのザナックだ」

「同じく〝ケルベロス〟リーダーのカインだ、よろしく頼むギルドマスター」

 そう自己紹介が行われているとき、後ろの方の警備の兵からどよめきが起こる。

「なんだ、どうかしたのか?」

 そのセレナの疑問の答えは、すぐにわかる事になる。

「すまん⋯⋯いきなりだが面倒事を持ちこんじまった」

 そんなザナックの声を聞いているのか聞いていないのか、セレナはを凝視する。

 馬車から水樽に入った人魚を下ろす少女を⋯⋯

「ふー疲れたわ、遅いわね馬車って!」

「アトラ声が大きいよ」

 周りの注目を浴びる人魚、それに竦む少女、そして声を失うギルドメンバー一同。

「おい、なんだあの人魚は⋯⋯説明しろザナック、カイン」

 セレナは顔を引きつらせながら問いかけるのだった。

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