第五章 日常の訪れ
05-01 新しい夜明け
アリシアが両親との再会を果たした翌日、アリシアはミルファを連れて両親の元へ訪れていた。
「朝食の支度が終わるまでもう少し待っててアリシア」
アリシアの母ルシアは楽しそうに告げる、きっと娘の為に何か出来るのが嬉しいのだろう。
「あの、私も手伝わせてください」
「でもミルファさんはお客様だから、アリシアと一緒にゆっくりしてていいのよ」
ルシアはミルファの申し出をやんわり拒否するが、
「いえ私は家庭料理に関してはあまり経験がないので、出来れば教えてもらえればと」
ミルファの料理経験の大半は、炊き出しなどの大規模な煮物がほとんどであった。
「そういう事なら、少し手伝ってもらおうかしら」
アリシアと父のアルドはそんな成り行きを黙って見ていた。
そしてルシアとミルファが調理場へ行った後アリシアは父と話始める。
「父さん達にセレナリーゼさんが何かやらせたいみたいだけど、何か心当たりある?」
「ああ、それなんだがさっぱりわからん、はっきり言って俺たちはしがない村人だからな」
「何か普通の村人とは違う技能でもある?」
「技能と言えるかわからんが、ちょっとした冒険者の真似事が出来る程度だな」
「冒険者の真似事?」
「ああ、父さんは母さんと結婚する前は冒険者だったんだ、といってもCランク止まりだったんだがな」
「⋯⋯今度この近くに冒険者ギルドの支部を作る予定なんだけど」
「この近く? もしかして魔の森の支部なのか! なるほど、なら俺はともかく母さんには手伝えるかもしれんな」
「母さんが何を?」
「父さんがまだ冒険者だったころ、母さんはギルドの受付嬢をしていたんだ」
「そうだったんだ」
「結婚を機に冒険者から足を洗って、ここ故郷のソルシエール村に母さんと一緒に戻って来たんだ」
「母さんもこの村の出身なの?」
「ああ、ルシアとは幼馴染でその頃のこの村は今ほど人手が要らなかったから町に出稼ぎにな、それで俺は冒険者に母さんはギルドで働き始めて、それで何年かたった頃に結婚したんだ」
「そっか⋯⋯」
そして自分が生まれたのだとアリシアは自分の成り立ちを知ってゆく。
「そのことをセレナリーゼさんは知っているの?」
「いつだったか世間話でした記憶がある、だからもしギルドの立ち上げに父さん達が必要なら遠慮なくいってくれ」
「まだそうと決まった訳じゃないけど、その時はお願い」
アリシアは魔女として進み選んだ道の先が父や母と共に歩めるのであれば、それがいいと感じた。
一方その頃、調理場ではルシアとミルファが雑談交じりに朝食の準備を進めていた。
「手際がいいわねミルファさんは」
「そんなことないです、教会では炊き出しのお手伝いをしていたくらいで」
「なるほどそれで⋯⋯炊き出しといえば今度この村で収穫祭をするのよ」
「収穫祭? ずいぶん早いんですね」
普通の収穫祭といえば秋を連想するものだ。
「この村では森の魔女様の加護のお陰か、麦の収穫が早めなのよ」
「そうだったんですか」
「それでその⋯⋯ミルファさん、貴方もあのお話出来る鏡を持っているかしら?」
「通魔鏡ですか? はい持っていますが?」
「もしよかったらなんだけど、お友達の方々も誘ってみては貰えないかしら」
「多分大丈夫だとは思いますが、でもアリシア様に直接言えば済むのにどうして?」
「実はその収穫祭の日は――」
「――!? そうだったんですか、分かりました皆に伝えます⋯⋯アリシア様には内密に」
「よろしくお願いしますね、ミルファさん」
そして出来上がった朝食を皆でとる。
それはアリシアの両親にとって待ち望んでいた光景だった。
とはいってもアリシアは基本的には魔の森に住む事には変わりはない。
アリシアの両親も時々こうして一緒に食卓を囲むそれでいいと、自分たちの娘は既に自立している、それが少し他よりも早すぎただけなのだと考えることにしたのだ。
食事が済んでしばらくした頃アリシアの持つ通魔鏡から呼び出し音が響く。
『おはようアリシア』
「おはようフィリス何?」
アリシアが通魔鏡を覗き込むとフィリスの後ろにはアレクが立っていた。
アリシアはこの通魔鏡の存在を隠せとは言わなかった、むしろ信頼のおける身近な者には知っておいて貰って構わないと、フィリスとルミナスには言ってある。
この事がいつか何かの緊急事態に役立つ日が来る⋯⋯かもしれないと。
『兄様からアリシアに伝えたい事があるって』
『やあアリシア殿、おはよう』
フィリスから通魔鏡を受け取って話始めたアレクが映る。
「おはようございますアレク様」
そして突然この国の王子様と話始めたアリシアの邪魔をしない様に、アリシアの両親とミルファは沈黙する。
『早急に会って話したいのだが、今日は都合はいいだろうか?』
「今日ですか? ええ別に構いませんよ」
その答えをしながらアリシアの目にミルファの姿が映る、それがきっかけでアリシアはふと思い出した。
「そうだアレク様、ミルファも連れて行って構いませんか?」
『別に構わないがどうしてだ?』
「ミルファの口座を作ろうかと」
『なるほど、ならちょうど都合がいいな』
「都合がいい?」
『それはこちらで話す、ではまた後で』
そして通信が終わる。
「何かあったのかな?」
「何かの所ではない事が昨日起こったと思いますが⋯⋯ところでアリシア様、私の口座って何です?」
「ああ、アレク様と相談してミルファへの報酬をどうするかの流れで、ミルファの口座を作る事になったんだけど本人が行かないとだめみたいで」
「私、報酬なんていりません」
「それはだめ認めない、ミルファとは友達だけどこれからは仕事としての面倒事も増えていくはず、その分の報酬はあって当然」
そう言われてしまえばミルファに反論は出来なかった、何故ならこれはアリシアが持つ〝対価〟という価値観に基づくものだからだ。
それに現実的にこの先ミルファがどれだけの苦労をしょい込むのか、まだ漠然とはしていたが確実な事は確かなのだ、だからお金で解決する事も増えていくのだろう。
「わかりました」
だからミルファは折れた。
「じゃあ父さん母さん行ってくるよ」
「頑張ってなアリシア」
「行ってらっしゃいアリシア」
両親に見送られる、これもいい物だとアリシアは思った。
アリシアとミルファはいったん魔の森に戻り支度をした後、お城へと転移した。
ミルファにとってはエルフィード城に来るのは初めてであり、やや緊張していた。
アリシア達が案内されたのは応接間である、そこにはアレクだけではなくラバンとフィリスそしてセレナリーゼも居た。
「アリシア殿、急に呼び出してすまない」
「いえ構いません」
しかしその時アリシアの目に映るセレナリーゼは、昨日とは打って変わって憔悴しているようだった。
「セレナリーゼ様ごきげんよう、どうかされたのですか?」
「ああ⋯⋯銀の魔女よ、ごきげんよう」
「母様、今朝からずっとローゼマイヤーさんに怒られっぱなしでね⋯⋯」
「ローゼマイヤーさんに?」
「ああそうだ! ちょっと歩く姿勢がとか食器の音を立てたりしただけで、ネチネチとあのババアめ!」
「そうですか⋯⋯」
アリシアは公の場のテーブルで音を立てた場合は、周りに聞こえない様に魔法でズルをしていた。
「アリシア殿。 セレナリーゼを救ってくれた事、本来は森の魔女殿に言わねばならぬのだが代わりに受けて欲しい、ありがとう」
そう言いながらアリシアに対しラバンは深く礼をする。
「⋯⋯師に代わってその礼を受け取りましょう」
そして一通りの挨拶が終わり本題に入る。
「アリシア殿こちらに居る母上セレナリーゼを冒険者ギルド魔の森支部のギルドマスターにしたい、協力して欲しい」
こうしてまた新しい問題が始まるのであった。
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