04-15 大空への憧れ
朝早くに全員が魔の森に集まりソルシエール村へ向かう、移動には前にも使った魔法の絨毯である。
目的地が近距離すぎてかえって行った事がないため、転移魔法では行けないためだ。
前の時とは違い今度の空の旅は、ゆったりのんびりしたものだった。
「やっぱり空の旅はいいね」
「私もミルファみたいに自分で飛んでみたいなー」
「あの時は必死でそんな余裕なかったです、でもまた飛んでみたいかな」
どうやら三人とも空への憧れは強いらしい、アリシア自身も魔女である自覚を魔法の素晴らしさを最初に強く感じたのは箒で飛んだ時だった。
「だったらみんなも空を飛ぶ練習してみる?」
そのアリシアの言葉にフィリス達は興味津々である。
「飛べるの私たちも!?」
「それは素晴らしい!」
「あの翼をみんなに付与するのですか?」
「あれは私の魔法で飛んでいるわけだから自分で飛んだとは言えない、でもみんなくらいの魔力持ちなら何らかの空を飛ぶ方法を習得出来るはず」
「それは私でも可能なの?」
フィリスの疑問ももっともだ、なにせ自分は魔術が使えないと立証されてしまっているのだから。
「フィリスの場合は何かの魔法具を使うしかないけど、ルミナスとミルファは自力で何かしら習得できるよ、人によって相性のいい飛び方があるはずだし。
「相性のいい飛び方?」
ルミナスの質問にアリシアは、
「例えばミルファは翼を具現化させるのは一度体験しているから習得しやすいかも、他にも箒や魔力の放出で飛んだりもできるし」
「魔法具と相性のいい私は箒が使えるかな?」
「フィリスなら使えると思うけど手が塞がるし不便かも、マントなら手が空くけどあんまりスピードが出ないし⋯⋯」
「スピードが出ないの?」
「最高速はそこそこ出るけど瞬間的な加速が全然ない、だからあれで空中戦とかしたら攻撃を全然避けれないと思う」
「本で空を走る靴を見た事があるけど、そっちはどうなの?」
「あっちは瞬間加速はいいけど最高速や持続時間が厳しい」
「なら両方とも使えば⋯⋯私ならできるんじゃ?」
アリシアにその発想は無かった、魔法具に込める魔法は基本的に一種にしないと普通の人には使えない、複合的な物を創れない訳ではないがそれぞれの機能を同時に使う事を前提にしたものは、普通の人には使えないため基本創らない。
「あえて不完全、いや目的に特化した物を複数同時に使う、確かにフィリスなら⋯⋯実験みたいになるけどいいフィリス?」
「ええもちろん、むしろやらせて欲しいわ」
「じゃあ試しにいくつか創ってみるよ」
「なら私は今度は自分であの翼を出して、飛ぶ訓練をしてみようと思います」
「ミルファはともかく私にあの羽は似合わないわ、だから魔力放出で飛べるようになるのを目指す!」
図らずも各々に課題や理想が出来たようである。
「ところでアリシアはどうやって飛んでるの? 何度か箒なしで浮かんでたよね?」
「私自身は魔力放出で反動を付けたり、自分にかかる重力の影響を魔法で消したり向きを変えたり、後は飛んでる箒に捕まったり、色々複合している」
「てことは箒に体重がかかっている、訳じゃないの?」
「そんなことしたら箒が折れるよ、浮かんでいる体が浮かんでいる箒に捕まってるだけ」
「そうだったんだ⋯⋯」
「だからお尻が痛くなったりしないんですね」
「だから箒で飛んでる時私は、片手で箒の上で逆立ちとかもできるよ」
いわば体重が無くなる様なものなので、アリシアの細腕でもそんな非常識な事も出来るのだろうと、フィリス達はそんなアリシアの姿をイメージする。
「そのアリシア、乙女としてはしたない事は人前ではやらないようにね」
「⋯⋯しないよ」
アリシアとしても自身のイメージを損なう様な事は、する気は無かった。
そんな話をしているうちに最初の目的地である、魔の森の南南西二十キロの地点についた。
いずれここに魔の森の冒険者ギルド支店が作られる予定の場所だ。
そしてその場でアリシアは目を閉じ、ほんの五秒ほどで目的を達成する。
「終わった、これで次からは転移で来れる」
その様子にルミナスは以前より疑問に思っていた事をアリシアに問う。
「アリシアさま
「転移魔法を使う時の私には、世界は真っ白で右も左も、上も下も、距離や時間すら異なって
「なるほど、安全を確認していないと転移先で死ぬ可能性すらある、だから一度現地へ赴く必要があったんですね」
「そういうこと」
ルミナスには理解できたらしい。
「その白い世界には何か規則性は無いの?」
「ある時もあるけど信用し切れない」
フィリスの疑問にもアリシアは答える。
「水面に浮かぶ大量の木の葉は常に流動しているから、後から同じ物がどれだったかわからない。 色を付けた木の葉は例え動いてても、どれかわかるから再び選べる⋯⋯そんな感じですか?」
「⋯⋯なるほど、ミルファの例えは解りやすい」
こういった概念をどう理解するかは魔女によっても様々なため、転移が出来ない魔女は結構いたらしい。
フィリスはともかくルミナスとミルファは、魔女の感覚さえ持ち合わせていれば魔女になれていただろうにと、アリシアには残念でならなかった。
再び空を飛び、今回もう一つの目的地であるソルシエール村へ向かう。
おそらくその村は昔から森の魔女との交流もあったであろう、その村人たちがどのように過ごしているのか、アリシアにとって興味は尽きなかった。
そう時間もたたずに到着する、そこはどこにでもある様な村である、しかし大きな特徴は村の外側である。
金色に輝く麦畑が広がっていた、どうやら収穫は目前といったようである。
「すごい⋯⋯」
「ここ、ソルシエール村は近年での麦の収穫量は、エルフィード王国内でも屈指なのよ」
息を呑む光景に言葉を失うアリシアに、フィリスはここへ来る前に調べておいた近年のソルシエール村について解説する。
やがて状況を分析する余裕が出来たアリシアは気付く、この村の周囲の地脈が不自然に安定している事を、どうやら師が何か細工したらしいというのは理解できたが、そのあまりの労力を想像するとアリシア自身はする気もおきない。
「どうやら発見されたようね」
ルミナスが下を見ると小さな子供たちがこちらに手を振っていた、そしてそんな子供たちのそばにいる大人たちもそれほど警戒しているようには見えない。
それはこの村がどれほど魔女を身近に生きてきたかという証に思えた。
「じゃあ降りてみよう」
アリシアは魔法の絨毯を降下させた。
「ソルシエール村の皆さん、お騒がせしてすみません」
そう最初に発言したのはフィリスだ、こういう所作を見るとやっぱりお姫様なんだなとアリシアは思う。
そしてアリシアはほぼ無意識で目を閉じ、この場所を魂に刻もうとする、しかし。
⋯⋯出来なかった。
そしてその原因に思い至る前に、アリシアは村人たちの中から自分をじっと見つめている女性と目が合ってしまった。
「アリシアどうしたの⋯⋯」
フィリスはアリシアの様子がおかしい事に気付きその目線を追う。そこに居たのはアリシアにそっくりな女性だった。
心臓が高鳴る、呼吸が止まる、そうアリシアは気付いたのだ、この村が何処で目の前の女性が誰なのかを⋯⋯
「ここは私が生まれた場所なんだ」
一歩後ずさり、そしてそのままアリシアは姿を消した。
「アリシア!? アリシアーー!」
フィリスの声が響く、そして間もなく自分たちを置いて転移で何処かへ跳んだのだと理解した。
「アリシア⋯⋯どうして?」
そんなフィリス達に長い銀色の髪の女性が話しかける。
「先ほどの魔女様はアリシアという名前なのですか?」
「⋯⋯ええ、そうよ。 貴方は誰?」
「もし先ほどの魔女様がアリシアという名前の森の魔女様の弟子なら⋯⋯あの子の母です」
その答えは、フィリスの予想通りであった。
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