04-10 魔の森の歓迎

 アリシアが冒険者たちを連れてきた所から魔の森へは、徒歩では多少の時間がかかる。

 その時間を歩きながら冒険者たちは有効的に使う、すなわち誰と手を組むか、だ。

 元々数日前にエルメニアで出会った冒険者同士の中には、元からの知り合いも多い。

 時にはライバル、時には手を組む事もあった、それにガーランドの教え子の同期たちは連絡を取り合っていた者達もいたりした。

 この一団の中のSランク冒険者の呼びかけでお互いに十人ぐらい、三パーティーぐらいのレイドを組む流れになる。

「斥候余ってるとこないか?」

「こっちは後衛が足りないきてくれ!」

 そんなやり取りの中みなが遠巻きに見て、どう話しかけるか牽制しあってるパーティーそれがフィリス達のスリースターと単独ソロのセレナの存在だ。

 冒険者は基本男社会でこういう時でもなければ女との出会いのきっかけも無い、普段の彼らなら迷わず見苦しい争奪戦へと発展したであろうがここはあの魔の森だ、命がかかっている慎重になるのは必然であった。

 結局スリースターもセレナも、どのレイドにも参加しないと表明した為その場は決着した。

「危なくなったらすぐ戻れよ」

「いつでも頼っていいからな」

 そう言ってアピールする事は忘れない彼らだった。


 やがて魔の森へ到達した冒険者たちは、コイントスなどで決めながら左右へと分散してゆく、なにせ全部で百人を超える大所帯だ、全員固まっていたら身動きがとれない。

 そのうちに彼等は十人ちょっとずつのレイド単位にばらけてゆく。

「けっこうキツイな⋯⋯」

「⋯⋯ああ」

 冒険者一同が等しく思う感想、それはやはり魔の森の空気の異様さである。

 濃厚な魔素と常に監視されていると、思われるような圧迫感が絶え間なく襲ってくる。

「みんな心を強く持てよ!」

 そのレイドのリーダー格の冒険者が鼓舞する、その時⋯⋯


 ガサガサ⋯⋯茂みに何かの気配を感じた。


 そのレイドメンバーはごく簡単な仕草だけで、各々役割に応じたポジションへ就く。

 そして茂みから現れたのは白い体毛、鋭い角、真っ赤な目、

一角兎ホーン・ラビットだ」

 その姿を見た一同はひとまずホッとした、何故なら一角兎ホーン・ラビットは何処の魔素溜まりにもいる、極めて一般的な魔物だからだ。

 しかし、その一瞬の油断が命取りだった。

 次の瞬間、目の前から消えるような速さで掻き消える、一同一角兎ホーン・ラビットを目で追うのがやっとだった。

「ぎゃああぁぁーー!!」

 気づいた時には仲間が一人倒れていた、首から激しい出血をしていて手で押さえている。

「総員警戒! 早く治療を!」

 幸いにも一角兎ホーン・ラビットはそのまま姿を消し、被害者の治療も無事に終わる。

「この傷薬、効き目がすげえ!」

「何だったんだよさっきのは、一角兎ホーン・ラビットだったよな?」

「ああ、確かにそうだ、この目で見た!」

「だが今まで見てきた一角兎ホーン・ラビットとは思えない速さだった!」

 一同混乱し浮足立っていた。

「落ち着けみんな! ここは魔の森だ! このくらいは覚悟してきたはずだ! そうだよな?」

 このレイドを仕切る彼はSランクだ、その彼の厳しい一言がみんなを冷静にする。

「ああ、そうだったな」

「しかしただの一角兎ホーン・ラビットが、あんなのだとは思わなかったぜ」

「もっと化け物が跋扈していると思っていたんだがな」

「見た目は一緒てのが質わりぃ」

 ようやく魔の森を体感しつつあるのは彼等たちだけではない、この森へ入った冒険者全てが思い知らされるまでそれほど時間はかからなかったのである。


 一方その頃。

「あの、銀の魔女様」

「なんです、ガーランドさん?」

「先ほど彼らに楽しんでくれっと、おっしゃってましたがどういう意味ですか?」

「え? 言葉通りですよ、だってギルドも冒険者の皆さんも魔の森で狩りをするのをずっと楽しみにしていたんでしょう?」

「⋯⋯そ、そうですな、その通りです」

 どうやら裏は無いようだとガーランドは一先ず安心するが、はたして今彼らはそんな事を思えているのだろうかと心配になる。

 その時だった、すぐ近くの転移魔法陣に人が現れたのは。

「あれ? もう戻って来た」

「イカン! 怪我をしている!」

 アリシアとガーランドは素早く近づきその転移してきた冒険者の状態を確認する。

「目をやられたのか!」

「どいて」

 ガーランドを押しのけてアリシアはその冒険者に触れる、するとストンと脱力し意識を失った。

「目、潰れてますね」

「なんてことだ⋯⋯」

 アリシアは潰れた眼球を見て治癒魔法では無理と判断して創造魔法を使った。

 潰れた眼球を材料にして元の眼球に創りかえる。

 しばらくしてその冒険者は意識を取り戻した。

「うわぁ、目が! ⋯⋯あれ?」

「おお、目が覚めたか!」

「ガーランドさん、俺目が⋯⋯見える?」

 どうやら自分の状態がわかってないらしい。

「お前は目を潰されてここへ転移してきた、怪我の方は銀の魔女様が治してくださったのだ⋯⋯何があった?」

 しばらくその男は放心していたが正気に戻りガーランドへ報告する。

死の烏デッド・レイブンです、突然奇襲され、思わずこの転移魔法具を使ってしまいました」

「⋯⋯そうか、災難だったな」

「⋯⋯俺、情けないです、もう脱落なんて」

 その時アリシアが戻って来た、あの後立て続けに数人の怪我人が転移してきたので、治療していたのだ。

「失格なんて誰が言ったんです?」

「え? でも森から出たら失格なんじゃ?」

 アリシアはガーランドと目を合わせて⋯⋯

「言いましたっけ、そんなこと?」

「あー試験内容は魔の森で三日間過ごす事だが、出たからといって即座に失格ではない、あくまで三日間の過ごし方で合否が決まる」

 早々に戻って来た数名の冒険者たちが集まってくる。

「じゃあ俺たちまた戻ってもいいのか?」

「ええ、まだ続けたいと思うのでしたら、その魔法陣の中でその魔法具を使ってください、さっきまで居た所へ転移出来ますよ」

 冒険者たちはお互いに目を合わせた後、アリシアの前で整列する。

「先ほどはありがとうございました、もう一度挑戦したいと思います」

「そうですか、では頑張ってください、死なない限りは大抵治してあげますから」

 冒険者たちはチラッとガーランドの右腕を見て納得し再び勇気が湧いてくる。

 そして一礼した後、彼らは再び地獄へと舞い戻るのであった。


 その頃にはばらけていた全ての冒険者たちは、何度か魔物との戦いを経験し自信を取り戻しつつあった。

 確かに他の魔素溜まりの魔物に比べて凶悪ではあるが、何度も狩ってきた馴染みの獲物ばかりである。

 その動きに慣れてしまえば倒すこと自体はそう難しくは無い、そして何より再び戻って来た仲間が完璧に治療をされているという事実は心強く安心できるものだった。

 そして日が暮れ始めた頃、次々と転移で戻って来た冒険者たちにアリシアは告げる。

「何故戻ってきたんです? 三日間森で過ごしてくださいって言いましたよね?」

 こうして再び魔の森に戻り、野営の準備をする冒険者たちは改めて思い知らされた。

「この森で三日間過ごせって、とんでもない条件じゃねえかよ⋯⋯」

 こうして彼らは眠れぬ夜を迎えるのだった。

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