04-02 創造の魔法

 ついにこの日がやって来た。

 アリシアの準備が終わりそして、フィリスとルミナスの予定の調整ができて、ここ魔の森へお迎えする日が。

 この日は朝からミルファはお迎えの為の料理も含めた準備を始めており、アリシアもいつもよりきちんとした身なりで二人を迎えに転移していった。


 約一時間後アリシアは二人を連れて、ここ魔の森へ戻ってきた。

「フィリス様、ルミナス様、ようこそおいでいただきました」

 そんなミルファの出迎えに続いてアリシアも二人を振り返り、あらためて礼をする。

「ようこそ我が魔の森へ、この銀の魔女がお二人を歓迎します」

 そんなかしこまったアリシアの挨拶に対して、

「歓迎、ありがとう」

「招待いたみいりますわ、銀の魔女様」

 二人の姫もまた、かしこまった挨拶を返す。

 しばらくして皆んなで笑い合うのだった。


「あーここが魔の森⋯⋯なんて高濃度の魔素」

「ねえアリシア、この魔の森では普通の人は気が狂うって言われてるけど、これで?」

 そんなフィリスの疑問は、ミルファもここへ来た時に思ったものだ。

「この辺りには結界が張られているから、そういった精神に訴えかけるような圧迫感は無いよ」

「そうなんだ」

「でも、少しでも奥に行けば精神的に圧迫されるから、気をしっかり持っていて⋯⋯まあみんななら大丈夫だと思うけど」

 そう説明しながらアリシアは、チラリとミルファを見る。

「ミルファは平気なの?」

「はい! 最初はきつかったですが、今ではもう慣れました」

 ルミナスの質問にハキハキ答える。

「では立ち話もなんだし、中に入ってください」

 そう言いながらアリシアは、みんなを魔女の家に迎え入れた。


「たしかにこれは⋯⋯」

「⋯⋯手狭ね」

 フィリスとルミナスの感想はもっともだった。

 元々この魔女の家は誰かを迎える気が無い、森の魔女が作った物だからだ。

 一応、応接間と言えるような部屋はあるものの、今この四人が詰めればやや狭い。

「とりあえずさっさと始めましょう、二人とも持って来た物を」

 そうしてアリシアに手渡された物は、フィリスからは今から創るみんなの家のデザイン画である。

 元々みんなで既に内部の間取りはきめていたのだが、外観の見た目に関してはフィリスに任せる事にしたのである。

 元々アリシアは創造魔法を行使する為の訓練の一環としての絵の腕前はかなりいい、しかしあくまでも見たままをそのまま描く事だったり、全く同じ絵を寸分違わず描き続けたりといった方向性であり、全くの無からデザインを生み出すといったことは現時点では得意とは言えない。

 いずれは身につくかも知れないが、今回はそういった事が既に得意なフィリスの力を借りる事にしたのである。

 そしてルミナスに持ってきてもらった物は、あらかじめアリシアが渡しておいた魔法の袋である。

 その中身は今から創る離れの家の重要部品だ。

 以前アリシアが帝国に行った際に非常に驚いた事がある、それはトイレの素晴らしさだった。

 アリシアは綺麗好きだ、だからそういったものは全て魔法で解決する。

 しかしそれと同等⋯⋯いやそれ以上の機能が帝国では完備されていた。

 一体どこの誰がこんな物を考え生み出したのか? まさに悪魔的アイデアの数々を魔術的装置の組み合わせで解決していた、正直この世の物とは思えなかった。

 アリシアはこれ以上の物を創れる気がしなかった為、素直にルミナスに完成品を持ってきてもらったのだ。

 ともかく今はフィリスが持って来たデザイン画を、みんなで検討する事にした。


 フィリスのデザイン画はいくつもの角度から、そしてそれが何パターンも書いてありかなりの枚数になる。

 どれがいいか、みんなで意見を出し合う。

「さすがフィリスね! いい、実にいい!」

 色々好みにうるさいルミナスでさえ、称賛する出来栄えであった。

 そして何パターンかある内からこの魔の森に似合った外観の物を選び、それをアリシアは家の図面と共に心へと焼き付けてていく。

 さあ、準備は整った。


 みんなは魔女の家の裏手の、既に切り開かれている場所の前に立つアリシアをやや後ろから見守る。

「では始めます」

 そのアリシアの宣言に、

「待ってました!」

「ごめんねミルファちゃん、私たちのせいで⋯⋯」

「いえ、別に構いませよ」

 そう、今日までミルファが物置暮らしだったのはアリシアが家を創る所をみんなで見たいという理由のせいだったのだ、もちろん外観がまだ決まってなかったのも含まれてはいたが⋯⋯

 結局それぞれの都合で、ミルファにいらぬ苦労をさせたのに変わりはない。

「ミルファ待たせたね⋯⋯でもすぐ終わるからそこで見てて」

「はい!」

 そしてアリシアの魔法が始まった。

 アリシアの収納魔法から多くの石材や木材が飛び出し、空高く舞い上がる。

 そして開けた空き地の次々と落ちてくる。

 それぞれの素材が時に組み合わさり、時には溶け合うように融合したりパズルのように積み重なってゆく。

 下の方の基礎部分、柱、壁、天井、そして屋根がみるみる出来上がってゆく。

 そして魔法の発動から五分くらいで完成した。

 使い切らなかった宙に浮かぶ素材を、アリシアは収納し終えると「終わった」と宣言した。


「すごい⋯⋯」

「これが魔法の力⋯⋯か」

「アリシア様、すごいです!」

 ある者は放心し、ある者ははしゃぐように讃えた、そのアリシアの御業を。

「このくらい造作もない⋯⋯」

 アリシアは内心はともかく表面上はこのくらい当然、といった風を装う。

「さあ、みんな入って!」

 こうして完成した家にみんなで入る事にした。


 この家の間取りを大雑把に説明すると入ってすぐに大きく広いリビングがある、ここでみんなで相談したり食事を取ったりする。

 左右に二つずつ部屋があり右側の二つは部屋と物置として両方ともミルファが使用する、左側の二つはフィリスとルミナスの部屋としてそれぞれが使用する。

 奥の方には調理場や、みんなで入れるくらいの広さのお風呂やトイレといった、水回りが整っている。

 なお二階は無い、しかし各部屋にはロフトがあるため結構立体的な作りになっている、ルミナスの発案だった。

 そしてみんなの各拠点への転送用魔法具は、それぞれの部屋の中に置かれる予定である。

 転送先の魔法具の設置場所に関してはアリシアは一切関与しない、それぞれの陣営の責任者によって決めてもらう事になっている。

 一通りみんなで見て回った後、アリシア以外の三人はそれぞれ自分の部屋になる場所を見ていた。

 その部屋は備え付けの棚などはあったが、基本的にはまだ空っぽで何もない。

 アリシアはあえて何も作らなかった、みんながそれぞれの好きに使い飾り立てるべきだと思ったからだ。

 実際それが良かったのだろう、これまで自分の部屋を持っていなかったミルファはもとより王女であるフィリスやルミナスも自分の部屋を、本当の意味で好き勝手にできた事は無かったのだから。

「ありがとう、アリシア」

「感謝する、アリシアさま!」

「嬉しいです、アリシア様」

 その言葉にアリシアはただ一言、

「どういたしまして」

 と返すのみだった。

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