04-03 創造の新境地
とりあえず一通り家の中を見て回った後、中央のリビングにアリシアがあらかじめ創っておいたテーブルとイスを出して、みんなでくつろいでいた。
「お待たせしました」
そこへミルファが、お茶の用意をして戻ってくる。
「お口に合うといいのですが⋯⋯」
自分からフィリスが新居のお祝いに持って来た茶葉を使って、お茶を入れる事を買って出たミルファだったが、こんな高級品を今まで扱ったことは無くだんだん自身がなくなってくる。
「いいのよミルファ! 王国産の茶葉は最高級なんだから、テキトーに入れてもおいしいに決まっているわ」
ルミナスがそんなフォローを入れる。
そしてそこへルミナスが持って来たケーキセットも加わり、ちょっとした新居の完成祝いという名のお茶会がはじまった。
しばらく家のすごさやそれを創りあげたアリシアの魔法、そしてこれからどうこの家を飾り立てていくのかそんなとりとめの無い会話が続き、そしてひと段落着いたときにアリシアが話始める。
「今からみんなの連絡用の魔法具を創ろうと思う、どういった物がいいか意見を聞きたい」
今日までミルファをほったらかしにしてきた事もあり、離れていても会話できる魔法具を創るべきだとアリシアは思ったのだ。
「確かにそうよね⋯⋯」
「ここへは簡単に来られるけど、出かけた先で緊急事態になっていち早く伝えなきゃって場合もあり得るし」
「そうですね、私も毎日ここへ戻ってきますが帰りが遅れる事もあり得ますし、連絡を事前に出来るのは助かります」
とくに反対意見もなく、みんなで意見を出し合う事になる。
「アリシアさま、あの手鏡でいいんじゃないですか?」
「でもあれはアリシア様からしか、話しかけれないのでは?」
「いや、鏡同士で通信できるようにも創れるよ」
そんな意見を聞きながら、フィリスに一つのアイデアが閃く。
「ねえアリシア、父様達に作るのは連絡先を切り替えれるようにできる仕様だけど、私たちのは三面鏡にしない?」
フィリスの説明によると三枚の鏡がそれぞれ独立していれば、四人が別々の場所で同時に会話可能なのでは? という事だった。
そしてそれは技術的にも可能な事だった。
では三枚も鏡を持ち歩くのか? という問題に関しては、三つの鏡とは考えずに一つの鏡が三分割されているという形状なら片手でも持てるとルミナスが主張する。
「見て頂戴」
そういってルミナスは持って来た小物入れれの中から小さな折り畳み式の手鏡を取り出しアリシアへ渡した。
「なるほど普段は蓋をして鏡面を守り、その蓋が開いたときに立てかけれる台になるのか⋯⋯」
それにこの形状なら持ち運びにも支障はない、通信用の魔法の鏡〝通魔鏡〟には一つその性質上避けられない問題点があった。
それは収納魔法に仕舞ってしまうと、一切の通信を遮断してしまうという事だ。
色々と意見を出し合った末に、大きさ十センチぐらいの長方形で中に鏡を三枚貼って、蓋を扉の様に開け閉めするという形に行き着く。
「みんな少し待ってて、ちょっと創ってくる」
そういってアリシアは、工房の方へと行ってしまった。
アリシアが席を立ってしばらくして、
「ねえ、フィリスわかってる? 今アリシアさまが創っているの結構ヤバいやつよ」
「わかってる、でも今後は絶対必要になる日が来る」
「どういう事ですか?」
少し考えた後フィリスは話始める。
「以前、王国で呪いを使った暗殺未遂事件があったの、兄様が調べてその背後関係その他もろもろ決着はついている、でも⋯⋯なぜそんな事件を起こしたのか? 動機やきっかけが曖昧でわからないのよ」
そしてフィリスはルミナスの目をじっと見つめて続ける。
「先日の我が帝国で起こった〝
「⋯⋯どういうことですか?」
二人の姫同士はわかってるようだがこれまで世の中には無頓着だったミルファには何が言いたいのかわからない。
そのミルファの疑問にルミナスが答える。
「我が帝国諜報部の調べにより導かれた予想なんだけど、何者かが世界のあちこちで事件を起こしている⋯⋯そしてこれからも起こし続ける可能性がある、そうよ」
「そんなことって!」
「落ち着いてミルファちゃん、あくまでも可能性よ、今のところは、でも何か嫌な予感はあるのよ、もしそれが現実になった時に、今アリシアが作ってる通信魔法具が有るか無いかで、救える命の数が大きく変わるわ」
「⋯⋯そのことをアリシア様には?」
「言わない方がいいでしょうね、今はまだ」
「はっきりしていないし、それに人間同士の争いごとにはあまり巻き込みたくはないよね」
「そうですか⋯⋯」
そんな時だったアリシアが戻って来たのは、そして様子がおかしかった。
「どうしたのアリシア? そんなに慌てて?」
「⋯⋯みんな、凄いのが出来たの!」
とりあえずアリシアが創り持って来た通魔鏡をみんなで見る。
長方形の蓋付き三面鏡⋯⋯厚さも一センチも無い、言ってしまえば先ほどみんなで相談して決めた外見通りの物だった。
「とりあえず落ち着いてアリシア」
そうなだめながらもフィリスは何やら嫌な予感が沸き起こる、普段のアリシアはこういった感情を強く出す事は無い、別に感情が希薄というわけではないが、なんかこう出来て当然という風格を出す事をアリシアは演じているからだ、そしてそれがアリシアにとっての魔女の理想像なのだろう。
だから何となくわかってしまった、この鏡なにか余計な機能が増えたのだと、そしてそれはアリシアにも想定外なほど規格外なのだと。
「ねえアリシア、これに何をしたの」
フィリスはとても不自然でやさしい声でアリシアに問いただす。
「見てて『
そう唱えながらアリシアは持っていた通魔鏡に自分の椅子を取り込んだ。
「収納魔法!?」
「魔法の袋みたい」
確かにすごい物である事には違い無いが、収納魔法を付与された魔法具は〝魔法の袋〟という物がすでに存在している。
そしてアリシアはそのまま自分のケーキやティーカップまで鏡に収納した。
「見てて! 『
そうアリシアが唱えると手に持った鏡に今まで入れた物が映る。
そして映った椅子を指で押しながら、
「『
すると椅子が出てきた。
またしてもミルファにはピンと来なかったが、魔法の袋を使った事のあるフィリスとルミナスには理解できた。
なぜアリシアがここまで興奮しているのかが、それは魔法の袋の常識を打ち破る物だったのだ。
物を大量に持ち運べる〝魔法の袋〟それには一つの欠点があった。
それは大量の多くの種類の物を入れすぎると、手探りではわからなくなってしまうという事である。
なので使い方のコツはなるべく入れる種類は減らすという、ある意味大容量を無駄にするものである。
しかしこの鏡は違う、視覚的に何が入っているか見え自由に選んで取り出せる。
「これはまたとんでもない物を⋯⋯」
「これ、どれくらい入るの?」
「普通の魔法の袋よりは少ないよ、でも色々詰めても大丈夫!」
しかしアリシアにとってこの通魔鏡の意義は大きい、なぜならばこれまでのアリシアが創って来た魔法具は全て師の教えや、残された資料に載った物を組み合わせた物にすぎなかったからだ。
今回この通魔鏡を創りながら、ふとこれを収納出来ないならいっそこれ自身に収納魔法を付与してしまえば⋯⋯
そんな思い付きが結果として、これまでの常識を変える物になったのだ。
いわば今アリシアは師の教えから離れ始めたと言えるのである。
「ねえアリシア、これ量産しろって言われたらどうなの?」
その一言にピタリとアリシアの様子がいつもに戻る。
「えーと、ミスリルと魔水晶がこのくらい⋯⋯」
その説明を聞き、
「採算、合わないんじゃないかな?」
その一言にアリシアはもしかしたら、偉大なる先人達はあえて創るのをやめただけなのでは? という疑念が生まれるのだった。
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