魔法少女臼井瑠偉
華構昏樹
魔法少女臼井瑠偉
うち、臼井瑠偉。この春から大学一年生。憧れていた大学生活は、数か月も経つと、ちょっと期待外れやったけど。それでもうちは元気に大学に通っとる。今はようやく午前の授業が終わって、お昼ご飯の時間や。
真理子「あ、瑠偉ちゃん。」
この子は天野真理子。同じ学科の同級生。授業でもちょくちょく一緒になっとる。
真理子「ご飯?」
瑠偉「せやで、真理子も?」
真理子「うん、一緒に食べよ。」
瑠偉「ええで。」
こうして真理子とは仲良くしとる。何人かおる、うちの友達の一人。一緒にご飯を食べたら、午後一番の授業は別々。興味の方向は、少し違うかな。
午後一番の授業が終わって、次のコマは空きコマや。どうしようかな、と思っていると、佐々木姉妹に遭遇する。
菜月「瑠偉やん。」
陽向「こんにちは。」
瑠偉「こんにちは。」
この姉妹はまた一緒に居るみたいや。佐々木菜月、陽向。うちとは学科は違うけど、同級生。
菜月「空きコマ?」
瑠偉「せやで。」
陽向「じゃあ、購買でお茶しませんか?」
読みたい本はあったが。
瑠偉「悪くないな。」
菜月「決まりや。ちょうど時間をつぶそうとしとったんや。」
陽向「ありがとうございます。」
まあ、あとで読めばいいか。
というわけで、一日の授業が終わるとうちは図書館にやってきた。
楓「あら、探し物?」
「楓さん。」
巽楓。うちの学科の一個上の先輩。
楓「試験勉強の資料でも探しているのかしら。」
瑠偉「試験は、まあ。」
大学生の敵や。
瑠偉「それとは別に読みたい本があって。」
楓「そうなのね。そういえば、あの授業の過去問は持っている?」
瑠偉「あー、無いですわ。」
楓「今度持ってきてあげるわね。」
瑠偉「ありがとうございます。」
ありがたいことや。全く、過去問とかいう入手経路がはっきりしないものが大事になってくるのは勘弁してほしいで。
うちは、本棚を辿る。あった。『中世宗教概論第七巻』。探している記述があるといいのやが。うちは今、問題を抱えとる。あるスペル、ある詠唱の一部が見つからないのだ。何の話やって?ここだけの話なんやけどな、うちは魔法少女なんや。そんな非現実的なもの存在しないって?ごもっとも。うちも我が身に降りかかるまでは信じてなかった。まあ、でもその話はまた、別の機会にじっくりしたいと思うで。
結局探していたものは見つからず、うちは帰宅した。この呪文は早く知らなくてはいけない。うちの直感がそう警鐘を打ち鳴らしとる。うちの勘はよく当たるんや。まあ、それでも明日や。もう今日は寝るだけ。うちは心地良い睡魔に身を任せることにした。
次の日も代わり映えのしない日常が繰り返される。お昼時、うちははらぺこ少女に出会う。
真理子「お昼?」
瑠偉「せやで。」
真理子「一緒に食べよ。」
瑠偉「ええで。」
日常の本質は繰り返すことや。その繰り返しの先に終着点があるのかは、誰も知らん。
午後の授業も終わったので、うちは図書館で探し物を続行する。
真理子「今日も探し物?」
「ん?真理子、図書館で会うのは珍しいな。」
真理子「やだなあ。昨日も会ったじゃない。」
瑠偉「会っとらんで。」
真理子「え?」
間。
瑠偉「勘違いやないか?」
真理子「そうだったかも。」
瑠偉「しっかりせんと、もうすぐ試験もあるし。」
真理子「そうだね。」
瑠偉「うちは試験とは関係ない探し物するけど、ちゃんと試験勉強するんやで。」
真理子「瑠偉ちゃんもね。」
瑠偉「耳が痛い。」
真理子「お互い様。」
うちは、本棚を辿る。あった。『異端宗教の文化史』。今日こそ見つかって欲しいのやが。席に付き、項をめくる。ああ、あった。やはり異端宗教側が持っていた。同化に対する抵抗、同一ならざる者の分離。当時の時代背景からすると、この呪文は目障りやったやろう。いや、いまでもそうか。うちはスペルを暗記する。きわめて短い一節だが、全体を繋ぎとめる呪文や。これでうちの魔法の準備は整った。
お昼。食事。繰り返すことが生活ではあるのやが、そこに変化を生まない限り、同じところを堂々巡りや。
真理子「午前の授業、長引いちゃったね。」
瑠偉「急いで食べなあかんな。」
真理子「私は、午後一、空きコマ。」
瑠偉「うう、うちはさっさと食べるで。」
せわしない食事は得意やない。食べている時くらいはゆったりした気分でいたいものや。
うちは次の授業へ急ぐ。いつもの廊下。この先の建物を上がったところに教室がある。
真理子「瑠偉ちゃん。」
瑠偉「え。」
真理子が二人。同一人物が二人。
真理子「そんなに急いでどこに行くの?」
うちは異常を察知する。
真理子「みんなさ。」
真理子「同じなんだよ。」
真理子「違うのは。」
真理子「耐えがたいよ。」
真理子「だからさ。」
真理子「一緒になろう。」
真理子と真理子「「瑠偉ちゃんも。」」
うちが自分の身体を見下ろすと、それは真理子のものだった。
ああ、うちの勘はやはり当たる。同化に対する抵抗、同一ならざる者の分離。中世の異端者は、或いは真理を掴んどったのかもしれん。息を吸って。
そして、うちは最初の魔法を唱える。
暗転。
魔法少女臼井瑠偉 華構昏樹 @KAKOU_KURAKI
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