心震わす麗しの

クララ

心震わす麗しの

 何度も何度も、押しつけて叩きつけて、力づくでわからせろ! なんて乱暴なことはしたくないの、と訴えれば、じゃあ、いいのがあるわと微笑まれた。

 冷え冷えとした夜、大事なものを埋め込められただけのそれは、無情にも放置される。そして長い沈黙の後に迎える朝。今度は容赦無く、束縛とも呼べそうな、身も焦がさんばかりの環境へと投げ込まれる。


「どっちもどっち……」

「あら、心優しきバージョンだったんだけど、ダメ?」


 心外だと言わんばかりの膨れっ面に苦笑しつつ、そっと覗き見る。熱い抱擁に身を委ね、硬く引き締まってひび割れた肌。けれど裂け目の向こうには、隠された潤いと柔らかさが感じられた。 


「……いい。最高にいいわ。低温熟成、長時間発酵」

「でしょ。鋳物ホーロー鍋、やってくれるわね。ハードタイプ、なかなかにイカしてるわ」


 早朝のキッチン。新しい駆け引きに満足した私たちは、鼻腔をくすぐる誘惑の中、手に手を取りあって頷きあった。

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心震わす麗しの クララ @cciel

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