素直で大人しい妹の方が良いから婚約破棄しろですか。すいませんがその子はただの猫かぶりですよ?

にがりの少なかった豆腐

妹の方が良い、ですか

  

「レイン、君のそんな態度にはもうこりごりだ」

「……そうですか。ですが、私の言っていることは間違いではないですよね? グレイ」


 間違っていることは正さなければなりません。それが幼馴染であり婚約者であるならば尚更正すべきでしょう。


「何も正論だけが全てではないだろう!」

「いえ、正論以前の問題でしょう。婚約者が居る身で他の女性に色目を使うのは問題外の行動です」


 グレイは何と言いますか、気の多い人なのですよね。それが表面上の付き合い程度であれば特に私からいう事は無いのですが、手を出そうとした段階でそんなことを言える状況ではないはずです。


「そもそも何でこんな場所でそんな注意をしてくるんだ。無駄に目立つではないか!」


 周囲の注目を無視し、グレイがそう叫びます。

 目立つのが嫌ならばこの場から去るか、今のように叫ばなければいいだけでしょう。それがわかっていないのでしょうか?


 グレイも私もまだ学園生です。そのため、今いる場所は学園の食堂になります。特に今は昼食時になるため、この場には他に多くの学園生が居ます。


「そのように声を上げる方が目立つと思いますよ?」

「うるさい!」


 忠告も無視されましたね。グレイは昔から感情が高ぶると周囲の意見や視線を認識できなくなる人でしたから、この反応も見慣れたものですね。


「なんで俺はこんな奴の婚約者なんて立場に居るんだ」

「それは私たちの両親がそう決めたからですね」

「そういう事を言いたい訳じゃねぇよ」


 私たちは政略的な婚約ですし、恋や愛がある訳ではありません。両親がそう決めたからこういう関係になっているだけです。


「俺の相手がレイン、お前ではなくサシアだったらどれだけよかったか」


 サシアは私の2つ下の妹です。この学園にも通っていてたまに顔を合わせます。なので今もこの場の近くに居てもおかしくはないですね。

 ただ、あの子は目立つことをあまり好いてはいませんし、こういう反応を示す殿方もあまり得意ではなかったと思います。

 

 しかし、サシアだったらよかった、ですか。

 確かにサシアは私とは違い口うるさい子ではありません。基本的に大人しいですし、見た目もいい子ですね。だから、グレイがそう言うのもわからなくはありません。


「レイン、この際だから俺との婚約を破棄してくれ。な? いいだろ。お前だって毎回俺の事を注意するのも面倒だろうし、互いにとって最善じゃないか?」

「何を言って、家同士で決めた婚約はそうそう簡単に破棄出来る物ではありませんよ」


 そもそもこの婚約を決めたのは私ではないですし、ましてやグレイでもありません。私たちの両親が決めたことなので、破棄するには両親たちの許可が必要です。


「ああ、俺の方から父上には報告しておくからさ、同意してくれればいいんだよ。なぁ?」


 グレイの方から報告しておく、というのにいささか不安を覚えますね。何か婚約破棄の理由を私に押し付けて来るような気がします。いえ、今の態度を見る限り十中八九そうしてくるでしょう。


「なら私の方からも報告は上げておきましょう」


 このままグレイと婚約状態を続けていくのも難しいでしょう。少なくともグレイはこれ以上関係を続けて行きたくは無いようですし、このまま婚約関係を続けてその状態に付き合わされると思うと私も嫌です。


「え、いや、私が言い出したことなのだし、レインは別にしなくても……」


 本当に反応が怪しいですね。これは確実に何かをしようとしていたのでしょう。


「いいえ。私からも報告をしていれば手間も減りますから、しておきますよ」

「ま、まぁ、確かにそうなんだけどさ……」

「それにグレイが先ほど言っていましたが、サシアの方へ話を通しておくことも可能になるかもしれません。今、あの子には婚約者はいませんし、話すことくらいなら可能だと思います」

「え?」


 まあ、あくまでも話すだけですけどね。


「そ、それなら、まあ……いいか?」


 グレイの反応からして話しさえできればどうにかなるとでも思っているのでしょうね。


 ただ、あの子がグレイの事をどう思っているかはわかりませんが、少なくとも良い方向の印象は持っていないでしょうから、話したところで上手くいく可能性なんて無に等しいのですけれどね。

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