第46話 よしよし

「エマ嬢、具合はどう?」


何事も無かったかのように、笑顔で聞いてくるラインハルト様。


「サーラ先生のヒールのお陰で、だいぶ楽です」


「寝不足、朝食抜きでの大魔法ぶっぱなしでガス欠しただけさね。心配なさんな」


うう……、その通りだけど、もう少しオブラートに包んで欲しいです……サーラ先生…。



「やっぱり本調子じゃなかったんだね」


「すみません……」


「謝らなくてもいいけどさ、…何でそんな寝不足に?キツい課題でもあったの?」


「あ、いえ……」


「違うの?」


ラインハルト様は、ローズを見る。ローズは苦笑しながら頷く。


「じゃあ……、あ!またあいつら何か言ってきた?!」


「ないです、ないです!…そんな、殿下に気にしていただくような理由ではないので、」


「だって、気になるじゃん!さっきだって、何触られそうになってるのさ?エマ嬢はほんとに鈍い!警戒心がなさすぎ!」


人の言葉を遮って、勝手な事を言う。


「さっきって、頭を撫でられただけですけど」


お疲れさん的なやつじゃないかな?スレン先生だし。


「~~~!だから、そういうとこが、ああもう、この鈍感!」


ちょっと?!そりゃ、ローズやジークにも自覚がどうこう言われてるけど、そんな言い方なくない?それに、そもそもは。


「なっ、何で殿下にそんなことを言われなきゃいけないんです?そもそも、誰のせいで寝られなかったと……!」


腹が立って、つい、叫ぶように言ってしまいながら、気付く。……私、今、何て言った?



「誰のせい、って……えっ?エマ嬢?」


ラインハルト様が少し呆然としたように聞いてくる。いやー!無理ー!!


「だっ、ちがっ、誰のせいでもないです!ただ、寝られなかったんです!サーラ先生に午前中は寝てなさいと言われているので、もう寝ます!ラインハルト様、お見舞いありがとうございました、授業も始まりますのでお戻りください!」


私は一気に言い切って、頭から布団を被る。


もうっ、この頭に血が上ると口を滑らせる性格、何とかしたい。泣けてくる。


「でも、エマ……」


「確かに授業が始まるね。お戻り、ラインハルト。女性にしつこいのも良くないよ」


サーラ先生が口添えしてくれる。ありがとうございます。


「……分かりました。じゃあ、エマ嬢、お大事にね」


「……ありがとうございます」


褒められることではないけれど、私は布団に顔を入れたまま返事をする。どうせ、また赤面中だ。


パタンと、ラインハルト様が退室した音がする。


私はホッと、安堵の息を漏らしてしまう。



「エマ、休むなら私も戻るわね?」


「ま、待ってローズ。あの、また眠れそうにないから……頭よしよししていて欲しい……ローズによしよしされると落ち着くの……」


布団からちょっとだけ顔を出して、ローズにお願いする。子どもみたいで恥ずかしいけれど。


ローズは一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに満面の笑顔になった。


「ふふ。エマに甘えられるなんて、嬉しいわ。サーラ先生、よろしいですか?」


「全く、手の焼ける子だよ。寝ないと回復しないしね、寝るまで頼むよ、ローズマリー。授業の先生には遅れると伝えておく」


「ありがとうございます」


「…ありがとう…サーラ先生…」



「はいよ」と、サーラ先生は部屋を出て行く。


そして私は嬉し恥ずかしの甘甘モードでローズによしよししてもらい、ふかーく、ぐっすりと眠ることができた。



◇◇◇



ぐっすりと眠った私は、スッキリと目覚める。


「よく寝たー!」


やっぱり、ローズのよしよしは最強。


あんまり頼むとジークに怒られそうだけど。なんてことを考えていると、お腹がグーと鳴る。


「お、お腹も空いてきた…今、何時?」


時計を見ようと、ベッドを降りたところで保健室のドアがトントンとノックされる。


「エマ。起きてるかしら?」


「レイチェル!さっき起きたの!」


「ちょうど良かった。開けるわね」


そう言って、いつもの三人が入ってきた。


「エマ、もういいの?」


カリンが心配そうに聞いてくれる。


「心配ありがとう。全く問題ないわ」


ふん、と両腕を曲げて力こぶを作る…ような仕草をする。


「良かった、よく眠れたのね?」


「うん、ローズ、ありがとう!」


「ちょうど昼休みよ。食欲は?」


「ありがと、レイチェル。ばっちりあるわ!」


私たちはサーラ先生にご挨拶して、食堂に向かった。



いつものように四人でキャッキャとランチをしていると、リック様が声を掛けてきた。


「エマ様。食事中に申し訳ないが。…少しお時間を頂けるだろうか。そのままで、構わないので」


「リック様。……はい、大丈夫です」


「ローズマリー様や皆様にも先に謝罪しましたが……ご迷惑をおかけしました。申し訳ありませんでした。そして治癒まで…ありがとうございます」


「いえ、ご無事で良かったです」


「それで、あの……今回、このような事を起こしてしまいましたが、謹慎が解けた後にはまた、魔法剣士を目指したく思っています。昔からの目標で……いろいろと、皆様を不安にさせてしまうかもしれませんが、しっかり反省をし、自分を見つめ直しますので!お許しいただけたら、と」


リック様は真剣な顔で、私達四人を見る。


「…リック様、そのようなこと、私達の許しなど必要ないと思いますわ。ねぇ?皆様」


頷く私達。


そして、ローズの言葉に顔色を青くするリック様。


「…勘違いなさらないで?先ほど、エマ様が仰っていたのよ。失敗すれば、気付けることがたくさんある。ご本人が頑張れるのなら、続けて欲しいと。…私もそう思いますわ」


「エマ様が…ローズマリー様も……」


「何かと外野も賑やかかもしれませんが。負けずにご自分を律して頑張って下さい。陰ながら応援致します」


私も答える。


「……!!ありがとうございます!いつかお二人の護衛に付けるよう、努力致します!」


「ありがとう、期待しております」


「楽しみにしていますね」


リック様はなぜか顔を赤くして、最敬礼をして去っていった。


「良かったねぇ、ローズ」


「そうね」



そんな私達を見て、


「「聖女様たちの親衛隊員が誕生したわね」」


と、レイチェルとカリンがぼやいていたそうな。

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