第37話 婚約者

ラインハルト殿下の言葉に、黄色い歓声が上がる。


私はいたたまれませんが…。


もう、恥ずかしくて俯いてしまう。だって、絶対真っ赤だもの、顔。



「しっ、しかし…そのようなこと、このような公衆の面前で…」


えっ、トーマス様、あなたがそれを言うの?一周回って笑えてしまうけれど。周りの三人も頷いているし……クラスの空気がひんやりしてきてますよ!


「そこまでになさって。トーマス様」


その時、清廉とした声がトーマス様を止めた。


…ご婚約者の、セレナ=エレクト侯爵令嬢だ。青紫色のサラサラストレートの髪に、アメジスト色の瞳の、知的で落ち着いた美しさのある人だ。



「ジークフリート王太子殿下、ラインハルト殿下、イベレスト公爵令嬢、……婚約者が申し訳ございません」


「いや、セレナ嬢には非はないよ。……彼らも自分たちで自覚するべきだ」


ジークが答える。


「ありがとう存じます。しかし、私共の力不足で諌め切れず……エマ様にもご心労をかけております、重ねて申し訳ございません」


私にまで頭を下げてくれる。何て格好いい人だ。


心底、やつの婚約者であることが勿体無い。


「そんな、勿体無いお言葉です、エレクト侯爵令嬢。……私こそ、上手く立ち回れず…ご心労を。申し訳ございません」


私も深く頭を下げる。



「……悪くない二人が謝り合うことはないよねぇ」


ラインハルト殿下の言葉に、セレナ様と私は顔を上げる。


「だってそうだよね?」


と言いながら、四人を見渡す。だから、笑顔が怖いですって。


彼らと言えば、バツの悪そうにゴニョゴニョしている。


「……ハルト、気持ちは分かるがそこまでにしておけ。そろそろホームルームの時間だ。皆に迷惑がかかる」


ジークの言葉に、もう結構かけてますよね…すみません、と思う。


「トーマス、エトル、アレン、ビル。……君達は確かに優秀だが…学生だからと甘く見ていると、取り返しのつかないことにもなるぞ。……王家うちもそうだが、皆、優秀な弟君もいるのだろう?」


四人がビクッと背筋を伸ばす。


ラインハルト様は、ちょっと照れてる?やだ、かわいいとか思ってしまう。お、弟的に!ですよ!


「当然に父君の後継になれるとは思わない方がいい。……ひとまず、これからひと月はローズも私も公務で体が空かない。生徒会の仕事を完璧にこなせ。今日はこれも伝えに来たのだ」


ジークが王太子然として言う。ローズ、惚れ直しちゃうね!


「「「「…承知致しました」」」」


さすがにビシッと腰を折る四人。腐っても高位貴族だ。ちゃんと頑張ってもらいたいものだ。



「行くぞ。ハルト」


「あ、ちょっと待って、兄上」


ジークが怪訝な顔をする。


「大丈夫、すぐ済む。……セレナ嬢」


「?はい」


セレナ様が、不思議そうにラインハルト様を見る。


「今日の放課後、時間はあるかい?私とエマのお茶会に招待したいんだ」


「……空いております。承知致しました」


少し緊張しながら承諾するセレナ様。そりゃ、何事かと思いますよね……王子様の招待だから、断れないだろうし。


「ありがとう、詳しくはまた伝えるよ。エマ嬢もいいよね?」


「は、はい!」


……もしかしてこれは、セッティングしてくれたの?私、話したっけ?ありがたいけれど。


「じゃあ二人共、後でね。お待たせ、兄上」


「ああ」


ようやく、それぞれの教室に戻られる二人。


ちょっと固まっていたクラスメート達も、ようやく息をついて自分の席に着き始める。


「…私も戻りますわ。エマ様、放課後宜しくお願い致します」


「こ、こちらこそ!」


セレナ様は優しく微笑んで、ご自分の席に着く。いろいろと不安もあるだろうに、自律した方だ。



「エマ、私達も参りましょう」


「あ、う…え、ええ」


ローズに声を掛けられ、うっかり素を出しそうになり、慌てて仮面を被る。


ローズと私は、初めから変わらず隣同士の席だ。


ようやく着席する。


「ねぇ、ローズ。今日の放課後のお茶会って、殿下はわざとセッティングしてくれたのかしら?私、話した覚えはないのだけれど」


こそっと耳打ちする。


「多分ね。というか、きっとその通りね。大方、どこかから情報を仕入れたのだと思うわ。ジークから聞いたのかもしれないけど」


「あ、それもあるのか。まあ、ありがたいけれど」


「私の仕事を取られたわ」


ちょっと拗ねるローズ。可愛いな。


「まあ、私は暫く自分でいっぱいになってしまうし、今回はハルトに譲るわ」


お茶目にウインク。ほんとに可愛い。


「……そ、それと、きょ、今日のお昼休みはその……大丈夫、かしら?朝、二人にご挨拶もできなかったわ」


「ふふっ、それは大丈夫よ!」


そこまで内緒話をした所でチャイムが鳴り、スレン先生が入って来た。



朝から疲労感MAXだけど、今日も授業頑張ろう!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る