第21話 確認しましょう

「ああ、そろそろ晩餐の時間だな」


ジークが胸ポケットから懐中時計を出しながら言った。


「いけない!話に夢中になりすぎて、私たち着替えてないわ!」


「大丈夫だよ、ローズ。制服も正装だし、今日は身内で気楽に晩餐しようと、陛下が」


慌てるローズに、ジークが話す。うん、陛下もいるよね。パパだもんね。もちろんママの王妃様もいるよね。


とても緊張するけれど、今後を考えたら仕方ないです、分かってる。聖女だし。



「そうだ、エマ。大事な確認を忘れていた」


何でしょう。


「エマは、前世の記憶があることを誰かに話したか?」


「誰にも話してないわ。私はシナリオとかも知らなかったし、バレてもどうこうなさそうかなとは思ったんだけど、何となく。二人は?」


「俺たちもお互いだけだ。未来を知っているように捉えられても困るしね」


頷くローズ。



「俺は今日の晩餐で、父に闇魔法についてのエマの見解を話したいと思う。ローズの闇魔法について知ってるのは大臣以上の限られた者たちだが、エマの予想通り……ローズの資質にケチを付けている奴らが、一部いるんだ。悔しいことに。でもきっと、これで風向きが変わる。いいかい?聖女からの話にしても」


「私は全く問題ないです。ローズの為になるなら、是非!」


その言葉に、優しい顔を向けてくれるジーク。


ローズはまた泣きそうになっている。



「あ、ごめん、でもひとつお願いが」


「何だ?」


「私の闇魔法の知識?は、女神様の御神託とかにしてもらえる?神殿の古い文献で見たとか言って、持って来いって言われても困るもの」


だって、ないし。


「あ、そうか」


「うん、実際は残念ながら女神様のお声を聞けたことはないけどね……私利私欲じゃないから、許していただこうかと。毎日、さらに気合いを入れて祈りを捧げるわ」


「私も捧げます!!」うん、ローズ可愛い。


「了解した、その件はそれでいこう」



「そして……エマの魅了魔法の件だが、こちらは絶対に他言無用だ。前世の話と共に、この3人だけの心に留めよう」


真剣な表情だ。


「分かった。でも考えてみたらさ、乙ゲーみたいに誰かを攻略!とか、ドラ◯エみたいにモンスターとかいないと、あんまり使い道がないよねぇ?魅了魔法って」


もちろん使う予定はないけれど。


「はあ……エマは賢いけど、変なところが純粋だよなあ」


苦笑されている。



「魅了魔法が禁忌なのは、もちろん他人の精神に干渉するのは危険だし、倫理的にも問題ありだから当然だが、それは平時の話だ。今はこの国も周辺国も平和だが……ひと度戦争が起こったり、何かしら争い事が起こったら……魅了はすごい武器になるし、脅威だろう?」


「あ……」


「この国にも軍隊はある。そこでどう捉えられるか分からないだろう?エマを危険な目に合わせたくないからね」


そうだ、平和ボケしていた。確かにこの国は安全だけど、どうしたって、いろいろな人はいるのだ。


「ありがとう、ごめんなさい。私ったら考えなしで…」


「謝らなくていい。聞いてはいたが、本気で魅了魔法を使うつもりが毛頭ないことがますます分かったよ」


「ほんと!ドラ◯エって、エマらしい」


慰められた。ちょっと恥ずかしい。だってほんとに使い道が思い浮かばなかった……何度も言うけど、使う気ないし。何なら使えるであろうことすら忘れるし。


でも気を付けないと。二人に余計な心配と迷惑をかけたくないもんね。



「さて、ひとまずは以上だな!そろそろ食堂へ向かおう」


「エマ、お城の料理ももちろん美味しいわよ?」


「…うん、そうだろうけど…マナーが…ドキドキするー」


陛下たちにはお会いしたことはあっても、食事は初だ。


「エマのマナーなら大丈夫よ。ね?ジーク」


「ああ、充分だ。ゲームのエマと違って、余計な心配をしなくて済むよ」


それは良かった。頑張ります。


「そうだ、エマ防音魔法解いて」


「あ、そうでした。……はい、大丈夫です」



「よし、行こう」


二人と楽に話していたから、淑女バージョン久しぶりな気がする。気合い入れないと。

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