第2.32話 共同作業
目が覚めると同時に起き上がる。疲れがあまり取れていない気がするが、これくらいのほうが頭が働いてくれるだろう。
まぶたをこすりながら朝食を終えて、さっそくパソコンを起動する。今日中にシューティングゲームのプログラムを終わらせる予定だ。
まずは飛行機の状態の可視化である。
石化状態の時は、半透明で灰色の円を飛行機の上に描画しよう。石の画像でもあればいいのだが、さすがに秋晴さんの作業量をこれ以上増やしたくない。かといって自分で描くのも面倒だ。
毒状態の時は紫色を使いたい。ただ、石化状態の時と同じように円を描画すると、重なった時に分かりにくくなる。毒状態はダメージを受けているため、プレイヤーに危機感を煽ることも兼ねて、画面全体を紫色にするのはどうだろうか。点滅でもさせれば、少しは良くなるはずだ。
次は、背景のプログラムを書く。
シューティングゲームでよくあるのは、画面よりも大きめに描いた絵を飛行機の動きに合わせて動かすことだ。そうすることで、あたかも飛行機が飛んでいるように見える。しかし、秋晴さんにはサイズの指定をしていなかったため、描いてもらったジャングルの絵は画面と同じ大きさしかない。そのまま貼り付けるだけにしよう。
秋晴さんはジャングルに合わせる形で、霧も描いてくれた。これは背景としてではなく、飛行機やメデューサよりも手前、前景として描画したい。そして、ただ描画するのではなく、メデューサが登場したと同時に、描画されるようにしよう。ちょっとした演出である。
実行して動かしてみる。
石化したときは透明で灰色の円が飛行機に被さり、毒状態になると画面全体が紫色で染まる。飛行機の状態の可視化はうまくいった。
後ろで描画されているジャングルは迫力があり、メデューサと共に出てくる霧は世界観を確立させてくれる。背景もこれでいいだろう。
意外とあっさり終わった。思えばそこまで長い道のりでもない。まだ、秋晴さんが描いている絵を組み込むという作業が残っているが、それはすぐに済むだろう。
ふむ、出来上がったのは最低限のものかもしれないが、それなりに達成感がある。
腕を組んで天井を眺めるが、すぐにパソコンに向かいなおした。
もう一度実行して動かしてみる。
今度は適当に弾を撃ったり爆弾を投下したりしながら遊んでみた。
「つまらんな」
自然と声が出た。なんというかこう、すごく平凡だ。そして、愛着だけがある。元々面白いものをと作り始めたわけではないが、物足りない。もしかすると俺は、このゲームが完成したと認めたくはないのだろうか。
とりあえず、共有フォルダに実行ファイルをアップロードして、それを秋晴さんに伝えた。動くものが見えれば、描くものの参考になるかもしれない。
少し休憩していると、秋晴さんからメッセージが来た。共有フォルダに上がった実行ファイルを確認したこと。そして、ちゃんとしたゲームになっていてすごい、というお褒めの言葉だ。
そう、ゲームになっている、ただそれだけなのだ。このメッセージにそんな意図がないことはわかっているが、痛いところを突かれた気がした。
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