第2.28話 共同作業

 昨日は早く寝てしまった。そのせいか、深夜に目を覚ますことになった。歯磨きをしてもう一度寝たのだが、やけに寝付きが悪かったのを覚えている。おかげで、祝日の半分をベッドの上で過ごすことになった。 

 ずっと天井を眺めていたが、気持ちはそこまで悪くない。頭が回らなくなったことで、考えをシンプルにすることが出来た。

 成り行きに任せよう、というのが答えだ。あまり先のことは考えず、やりたいようにやる。何しろ、誰かとゲームを作るのは初めてのことだ。元々、誰かと協力して何かをやるということを、積極的に避けてきた。上手くいかなくて当然である。

 とはいえ、わざと失敗するわけにはいかない。あくまでも、経験で満足するのは俺である。最低限シューティングゲームと呼べるものは作りたい。

 カーテンを開けて外の光を部屋に入れた。やはり目を覚ますのは、眩しさを使うのが一番だ。

 ベッドから完全に体を離す前に、スマートフォンを手に取る。案の定、通知が来ていた。

 「佐久間とゲームするから浩太朗も来い」

隆也からである。

 もしかするとゲームのアイデアについて、何かしらの意見を聞けるかもしれない。

 朝食を済ましたらすぐにいくと返信すると、すぐに返ってきた。

「今まで寝てたのか?もう昼だぞ」

なんということだ、急いで朝食を済ませよう。



 ほんのりと眠気が残っている目を開けながら、ゲーム機の電源を入れた。プレイするゲームは前と同じ、バトルロワイアルだ。友達とチームを組んで、全く知らない人たちと戦うことが出来る。

「お願いしまーす」

通話を繋げると共に、佐久間の声が聞こえてきた。挨拶を敬語でするのは佐久間の癖である。ここからため口になり、何時間も経つと口調が荒くなることもある。今日はそんなに長時間やらないので、荒ぶったところを拝むことは出来ないだろう。

 軽く準備運動をして、試合を始める。

 指と目と思考がゲームに追い付いて来ると共に、雑談のペースも早くなってくる。一つの話に区切りがついたところで、シューティングゲームの話を切り出す。

「作ってるゲームについての意見が欲しいんだがいいか」

ノリのいい二人である。自分のアイデアが形になるのかと盛り上がってくれた。

「メデューサがボスなんだが、攻撃方法に悩んでいてな。飛行機を石にする攻撃はすでに考えていて、全体的な動きもそれに合わせてる。後は毒攻撃をしようと思っているんだが、何かいい案は無いか」

まだ完成していないゲームを口頭だけで説明する、というのは難しいものだ。自分の頭の中で浮かべたものを、相手の頭の中にそのままの形で浮かばせないといけない。

「メデューサっていうと頭に蛇が生えてる妖怪だっけ、毒なら蛇の口から吐くのがいいんじゃね」

先にヘッドフォンから聞こえたのは、隆也の声だ。佐久間がすぐに、妖怪ではないだろと突っ込む。

 画面に敵が映っていないことを確認してから、少し考えてみる。

 秋晴さんが描いたメデューサの蛇が毒を吐く。口を開けるなど、アニメーションが必要かもしれない。それに、蛇は髪として描かれていて、そこまで大きくないのだ。それに合わせると、毒も小さくなって、見にくくなるかもしれない。

 描きなおしてもらうことも考えたが、それは極力避けたい。今回の休みで痛感したのだが、俺達がやっているのは、学校の活動ではない。いつ第二コンピュータ室を使えなくなるのかもわからないのだ。完成を急いだほうがいいだろう。

「俺が昔やってたシューティングゲームだと、ボスの周りを雑魚敵がくるくる回っていたな。衛星っていうんだっけ、魔法ってことで毒の玉でも振り回したら?」

やはりある程度は企画しておくべきだなと考えていると、次は佐久間が提案をしてくれた。なるほど、魔法か。それなら小さな蛇から毒を出さなくてもいい。描きなおしてもらうことも回避できるだろう。

「採用」

俺がそう言うと、佐久間がわざとらしく喜ぶのが、ヘッドフォン越しに聞こえた。まさかここでヒントが見つかるなんて思わなかった。喜ぶべきなのは俺の方ではないだろうか。

 二人にお礼を言って、ゲームを終えた。通話を切り、部屋の静けさを際立たせる。

 今日はもう、作業をする時間は残っていないだろう。残った時間でアイデアを固めて、明日実装することにした。

 そして、明後日の作業通話の時に、秋晴さんへ実行ファイルを送って確認してもらおう。そして、これは違うと言われれば潔く作り直す。二人で納得できるものが出来た時、完成と言えるのだ。

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