第2.16話 共同作業
窓を叩く音がする。射しこんでくる光が弱い。起こす体がいつもよりも重く感じる。まるで誰かと体を入れ替えたようだ。目は半開きだが、頭だけが妙に冴える。
右手で後頭部を掻きながら、左手でカーテンを開けた。
「雨か」
小降りでもなければ、大雨でもない。せっかくの休日を台無しにする普段通りの雨だ。いや、まったく雨が降らないのも困る。学校に行くときに降るのも不便だ。ということは、休日に降ってくれる方が、多少はマシなのかもしれない。
目覚まし時計を見ると、8時手前だった。昨日よりは休日らしい朝を迎えられたらしい。
誰もいないリビングの電気をつけて、台所を見渡す。朝食に悩むのは、親譲りの癖である。
賞味期限が一日過ぎてしまったパンをバタートーストにして、熱くない程度に温めた牛乳で流し込む。
テレビを点けたが、すぐに消した。昨日やるつもりだったUIの実装が、まだ終わっていない。
UIクラスを作り、必要な変数と関数を用意する。変数にはスコアと経過時間を、関数にはそれらの値をセットする関数と描画する関数を、とりあえず用意した。経過時間は秒数だけ測っているので、描画する時は、60で割ったものを分、余りを秒と、簡単な計算式を用いた。
UIの描画関数を、メインループで呼び出すのだが、ここで気を付けないといけないことがある。描画する順番だ。UIの描画をした後に、飛行機を描画してしまったら、被さったときにUIが隠れてしまうのだ。凝った演出を省けば、UIが優先的に描画されるのが常である。
後は、ゲームマネージャーから、スコアと経過時間を取得し、UIにセットする。
実行してみる。経過時間と、スコアが表示されたことを確認した。
天井を見上げながら、ふぅと息を吐く。昨日の作業が終わったということは、やっと今日が始まるということだ。
とはいえ、詰め込み過ぎた。例えばこれが、専門学生であれば、もう少し頑張りたいところだが、まだ高校一年の春である。少しはさぼってもいいだろう。
自室に戻り、興味のあった力学について調べてみる。といっても、内容は、高校で習うものと同じなのだが。
重力の計算は、やったことがある。ただの円を動かしただけだが、確かにそれっぽくはあった。問題は、それが他の物とぶつかった時だ。その円が手榴弾だとして、地面や壁にぶつかった時に、どういう動きをするのか。やはり、リアルな表現というものは、惹かれるものがある。
いくつかのサイトを覗いてみたが、分かりやすいと思うところを見つけることが出来なかった。学校には物理学の先生もいるのだから、休み時間に聞きに行くというのも手だろう。
開いているサイトに、人が箱を押している絵が載っていた。摩擦の説明だろう。隆也がバイトを探していたのを思い出す。いいバイトを見つけられたのだろうか。もし、接客でないのなら、愚痴でも聞いてやろう。俺がバイトを探す時の参考になるかもしれない。
駄目だな。無駄なことを考えてしまう。
気分を変えるために、他のことを考えることにした。
通販サイトでゲームエンジンの入門書を検索し、評価のいいものを、買うものリストに入れた。知識欲を刺激するだけで、気分転換が出来るのだ。我ながら、安上がりな性格だなと思う。
今回見つけたのは一冊だけだが、過去に探したものも含めると、10冊を超えていた。どれもゲームプログラミング関連である。良さそうなものを見つけても買えずにいるのは、単純にお金が無いからだ。中高生のお小遣いというものは、昼飯や散髪で、ほとんどを費やしてしまう。お年玉を親に預けたら返ってこなかった、ということは無かったが、パソコンを買った時点で、ほとんどを使い切ってしまっていた。当分大きな買い物は出来そうにない。
また一つ増えた欲しいものリストだが、しばらく減ることは無いだろう。これは、やる気と怠惰の記録でもあるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます