第1.0話 潰れたゲーム制作部

 入学して五日目。昼休みも終わりに近づき、今日も残すところ部活紹介だけだ。

 昼休みが終わるまでには、体育館でクラスごとに並ばないといけない。中学の時は、一度教室の前に並び先生についていく形で体育館に行ったのだが、この高校では各自体育館に行くらしい。癖で教室で待っていたら置いてけぼりをくらってしまう。気をつけなければ。

 部活紹介の時は何も飲むことができない。今のうちに飲んでおこうとスクールバックからペットボトルを取り出しキャップを開ける。冷たいものはあんまり好きではないので、ペットボトルに入ったお茶は常温。早く飲んで教室を出なければとお茶をごくごくと飲む。飲み終わってペットボトルを口から離し、はぁと一息つこうとするが、パシンッという音とともに、背中に一瞬の痛みを感じる。誰かが俺の背中を叩いたようだ。息を吐くかわりに咳き込む。

「体育館まで一緒に行こうぜ」

もう二回ほど背中をさっきより弱く叩きながら隆也が誘ってくる。

「おい隆也、何かを飲んでいる人と偉い人と子どもは叩いたらだめだと、小さい頃に教えてもらわなかったのか?」

咳き込みながらもすぐに落ち着き、俺は隆也をにらんだ。

「そもそも人を叩くのが駄目だよな、芸人ならともかく」

隆也は笑いながら言う。俺は芸人じゃないし、芸人でも不意打ちで叩いたらだめだろう。キャップを閉めたペットボトルをスクールバックに戻し、あごを扉の方にクイッと向けて教室を出ようと促す。

すでに半数以上のクラスメイト達が教室を出ていた。

お前どこ入るか決めた?

俺はバスケ部にするぜ。

部活紹介の前だから当たり前だが、周りではどこの部活に入るのかの会話が飛び交っていた。部活動は必須ではないのだが、なぜか何もしないという声はなかった。

教室は二階にあり、体育館に行くには階段を降りないといけない。

「どんなことするんだろうな」

踊り場を通り過ぎる時、隆也に話しかける。

「どんなことって?」

「中学の部活紹介の時も、先輩達が部活にちなんだことをしながら紹介していただろ。野球部はユニフォーム着て、キャッチボールしながら紹介してた。サッカー部はリフティングしながらだった」

正直どんなにすごいことをしようと、元々入ると決めてた人しか集まらないと思うが。

「へぇ、中学の部活紹介とか覚えてるんだ、なんか意外」

隆也はニヤニヤしながら顔を覗き込んでくる。

「オーソドックスなところを覚えてるだけだ」

覚えようとしなくても覚えてることなんていっぱいあるだろう。

「部活紹介の内容を気にしているのも意外だな」

隆也のニヤニヤが少しうざくなってくる。

「別に本当に気になってるわけじゃない。会話の一つもしなかったら一緒に行く意味がないだろう」

まぁ、ゲーム制作部がどういう紹介をするのかは少し気になるが。過去に作った作品でも紹介するのだろうか。

「まぁ、それもそうだな」

隆也は鬱陶しいニヤニヤをやっとやめてくれた。

「つーかさ、ゲーム制作部って何を紹介するんだろうな。新入生全員にゲームやらせるのは無理だろうし」

友達なだけあって考えることは同じらしい。それともエスパーなのだろうか。今まで俺が考えていたことはすべて、隆也に見透かされているのかもしれない。恐ろしいことだ。こいつにだけは知られたくないことがたくさんある。

 そんなこんなで体育館に着く。

 ゲーム制作部がどんなことをするか予想ができないまま、部活紹介が始まる。この学校は一学年ごとに十クラスある。今日は新入生にむけての部活紹介なので、2、3年生は部活の代表者と委員会の人しかいない。壇上に向かい右側から順番に、AクラスからJクラスまでが2列ずつ並んでいる。名簿順か背の順で並ぶのが一般的だと思っていたが、この高校では、クラスごとに並んでいれば順番は自由らしい。俺と隆也が在籍するCクラスは右寄りの真ん中で、すでに7割ほどのクラスメイトが床に座っていた。

 ステージ幕は閉じている。裏では先輩達がユニフォームだったり衣装だったりを着て待機しているのだろう。

「お菓子研究会とかねーのかな」

隆也が隣に座りながら言う。お菓子が配られるのを期待してるんだろう。たしかに、食後のデザートと思えば悪くない。

「ケーキとかあれば最高なのに」

さすがにそれは無理だろう。一年生だけで三百人はいる。三百個もケーキを作れるなら、部活の域を超えている。

 しかし、ここで否定的な言葉を発言するのは中学生までだ。もう俺は高校生。同調するのだ!

「さすがに全員分は無理じゃないか」

まだ俺は高校生。一度無理と思ったことは無理としか思えないし言えない。

「百人を超すマンモス部活だったらいけるぜ」

この高校の生徒数は千人くらいだったはずだ。さすがに十人に一人が入る部活なんてないだろう。

「ケーキは無理でもクッキーならいけるかもな」

一人一個しかなさそうだが。

「いや、もうケーキの腹だから」

真顔で言う隆也を少し面白いと思ってしまったが、まぁ、気のせいだろう。紅茶も出てくれば菓子研入ると隆也が言い出した時に、担任の先生が点呼をとり始めた。

 あるかもわからない部活を略すなと心の中でささやきながら、壇上のほうを向く。スピーカーから音楽が流れる。ステージ幕が上がる。部活紹介は軽音楽部の演奏で始まった。



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