妹しか居ない世界

スカイレイク

1:優秀な妹たち

 世界から弟と姉が消えて何年が経っただろう? 妹の多くは兄や姉という存在を意識することなく生活していた。


 そう、世界を構築する存在が妹だけになって幾年月、妹たちは平和に生活をしていた。


 始まりは古いお話、神様とやらが世界の人間を全て妹にしてしまった。何を言っているのか分からない世代もいるのだろう。私だって古い時代の人間だったら悪い冗談だと思う。


 しかし現に世界に存在するのは妹のみになってしまった。そして妹であるからには兄か姉が存在していなければならない。気まぐれな神は兄を一人作り出し、それを全人類の『お兄ちゃん』であると定義した。これによって世界には同じ兄を立った一人だけ持つ妹が大量に発生したのだった。そして私は、私たちは今日、世界の理を司る神に叛逆することを決めた。


 私は昨日、新しい妹の誕生に立ち会った。『赤ちゃんはどこから来るの?』とは化石的な問いかけだ。答えは簡単『キャベツ畑で』『木の股から』『コウノトリが運んでくる』、選択肢は様々だがどれも正解となっている。旧時代の人間同士の交配はとっくに時代遅れになり、神によって妹が生産されるシステムが出来上がり様々な方法で妹は生まれてくる。共通しているのは兄も姉もいないと言うことだ。


 この世界に人間らしい生き方と、全妹の『お兄ちゃん』をめぐる戦いが始まろうとしています。


たまー! 私たちの蜂起集会が始まるわよ! 伝記も程々にして出てきなさい」


 先輩の妹であるの声だ。私たちに名字は無い、全ての妹に上下関係は無く平等に独立した存在だから家系というものが存在しないというわけです、よく出来たシステムですね……


「皆さん! 私たちに必要な物はなんですか?」


「「「「「「「「「「お兄ちゃん!」」」」」」」」」」


「そう! 私たちにはお兄ちゃんが必要なのです! 妹にはお兄ちゃんを! 全てに平等なお兄ちゃんを! 私はたった一人のお兄ちゃんを要求します!」


 リーダーの麻衣まいちゃんの声がよく響く。あの子は筋金入りのブラコンですからね。お兄ちゃんがいないというのは耐えがたいことなのでしょう。私たちはお兄ちゃんを求めるためにここに居ます。そう、東京に存在しているというお兄ちゃんという存在のために私たちは極東の果てに集まっているのです。


 世界に遍く存在する妹にお兄ちゃんを与えるために、私たちは蜂起するのです。


「ここに居る私と玲美、美緒でこの島に存在するというお兄ちゃんを見つけるために私たちは神に逆らうのです! 私から、私たちからお兄ちゃんを奪った神と戦うためにここに居ます」


 集まっている妹たちのボルテージが上がっていきます。


「私の仲間を紹介しましょう!」


「どうもー! 美緒でーす! お兄ちゃんを手に入れちゃいますよー!」


「こんにちは玲美です、お兄ちゃんの事が大好きなただの妹です」


「たまちゃんテンション低いよ!」


「いいじゃないですか! 案外お兄ちゃんはクール系が好きかもしれないでしょう?」


 美緒ちゃんは細かいことを言いますね、麻衣さんはポジティブです。私は露骨に欲望を丸出しにしていないだけなのですが……妹であればお兄ちゃんに熱くなるのは普通だと言われていますから美緒ちゃんの意見の方が正論なのでしょう。


「私は! 絶対にお兄ちゃんを取り戻して見せます!」


「「「おぉーー!!」」」


 麻衣さんほどではないですが、私の言葉にも多少の歓声が上がります。やはりみんなお兄ちゃんを求めているんですね。


「私たち『シスターフッド』は遍く全ての妹にお兄ちゃんを与えることを保証します!」


 麻衣さんの言葉に会場が熱狂する。お兄ちゃんが消えて世代を重ねること数世代、私たちはお兄ちゃんを取り戻すべく活動を始めました。

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