最後のお願いなんかにしたくない

「ネクタイ、貰えませんか」

 覚悟したくせに、顔が見られなかった。卒業式を終えた同級生が帰っていく。その笑い声をかき消すくらい、心臓がうるさい。

「……まあ、いいけど」

「えっ」

 目が合った瞬間、先生は慌てて顔を逸らした。太い眉を寄せて、気まずそうにしている。

 なんか、叱られる前の子どもみたい。

「いつもダメって言ってたのに」

「それは付き合ってほしいとか言ってくるからだろ」

 不器用な指がネクタイに触れた。

「待って! 私がやりたい」

「はあ?」

「いい?」

 手がゆっくりと下される。それを合図に手を伸ばした。

 結び目に指をかける。爪が首に触れてしまって、大きい身体がぴくりと反応した。

 この瞬間が、一生終わらなければいいのに。



(300文字)


2025/03/01

#Monthly300

( @mon300nov )

第27回お題:伸びる



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