一番綺麗なのは

 朝八時、大学図書館前。いつもと同じ待ち合わせのはずなのに、ヒリヒリした違和感がおれを襲う。

「……それ、なに?」

 右手の薬指に光る、銀色の指輪。何かなんて分かっているのに、おれはそう尋ねるしかできなかった。

「あー、これ? この前買ったやつ」

 蒼太は手のひらを広げながら頬を緩めた。愛しい記憶をたぐり寄せるような表情に、胸が軋む。

「あいつさ、ペアリングに憧れてたんだって」

 そんなの、おれだって同じなのに。

 蒼太の瞳が朝日を吸って煌めく。指輪を見つめる眼差しが優しくて、目が離せない。

 その瞳を、おれに向けてくれたら。

 そんな感情を握り潰して笑う。

「綺麗だな」

 お前の手が、表情が。そんな指輪なんかよりも、ずっと綺麗だ。



(300文字)


2024/06/01

#Monthly300

( @mon300nov )

第18回お題:指



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