濁った世界へ

 身体にピリリとした痺れが走る。私の中にお酒が流れているのだと思ったら、なぜか笑えて仕方なかった。

 もう一度缶ビールに手を伸ばして、飲めるだけ飲む。ふわりと意識が濁る感じがして、思わず頬が緩んだ。

 気持ちいい。私じゃなくなっていくみたい。

 ビールは苦くて、美味しいとは思えなかった。でも少し大人になれた気がして嬉しい。今は思いきり背伸びしたい気分だ。冷蔵庫から缶をもう一本取り出す。

 全て飲み終えたとき、私はどうなっているだろう。いつもより陽気で、大胆で、よく笑う私。いつもそんなふうにいられたらいいのに。現実よりも、濁った世界のほうが生きやすそうだ。

 もっともっと濁ってみたい。本当に、私じゃなくなるくらいに。



(300文字)


2024/03/02

#Monthly300

( @mon300nov )

第15回お題:酔う



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