掴みたい、掴めない

 誰だっけ……。

 記憶を手繰り寄せても、女の子が誰なのか全く思い出せない。

 私と彼女が写っている写真は、日記帳に貼られていた。制服姿で肩を寄せ合って、こちらに向かって笑っている。

『香織と海に行った。冬の海には誰もいなくて、私たち二人だけの世界みたいだった』

 その日の日記には、そう綴られている。この香織という女の子は、きっと私と仲が良かったのだろう。頻繁に日記に登場し、そのたびにどこかに出かけて写真を残している。

 思い出したい。でも思い出せない。

 呼吸が浅くなる。手に汗が滲む。

 心が私を急かすけれど、頭の中に真っ暗な穴が空いているみたいで、掴もうとしても全て滑り落ちていく。彼女の微笑みだけが、全てだった。



(298文字)


2024/02/03

#Monthly300

( @mon300nov )

第14回お題:忘れる



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