　箱をひっくり返したら、机の上にハートが溢れた。この中には私の想いが刻まれている。

　高校生だった頃を思い出す。授業中にこっそりと綴った手紙。ハート型に折ったそれは、私の気持ちが形になってしまったみたいで、一度も渡せなかった。

「だからって、これは多すぎでしょ」

　机からぽろぽろとこぼれ落ちるハートを見て、葵は笑った。その瑞々しい声が、私の心を締めつける。

「クローゼットの中にもまだある」

「なにそれ、どんだけ好きだったの」

「好きだよ」

　今でも、好きだよ。

　そう言った瞬間、私の身体は柔らかいものに包まれていた。初めて触れた葵の胸は、あたたかくていい匂いがした。

「……早く言ってよ」

　震えた声が愛しくて、視界が滲んだ。

（300文字）

2023/06/03

#Monthly300

（ @mon300nov ）

第6回お題：折る

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