私ばかり、待っている

 待つのはもう嫌だと何度も思ったはずなのに、私はまた待っている。一日に二度、朝と夕に必ずポストを見る。簡単に繋がれる時代に、あの人は手紙しか寄越してくれない。

 手紙はひと月に一度届けばいいほうで、半年も届かないこともあった。そうなると私は、手紙のことばかり考えて何もできなくなる。

 届いた手紙に返事を書く。送る。このリズムを崩したら、きっとあの人はもう手紙を書いてくれなくなるだろう。本当はもっと書きたいのに、それはできない。

 胸がヒリヒリと痛んで苦しい。それでも私は、あの人の文字を愛しいと思ってしまう。

 手紙を書いているときは、私のことを考えてくれている。そう思ったら、こんな痛みなどなんでもなかった。



(298文字)


2023/05/06

#Monthly300

( @mon300nov )

第5回お題:待つ


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