捨て駒部隊
久田高一
捨て駒部隊
2561年、地球はカタラ星との戦争の真っ只中であった。お互いの戦力は均衡しており、誰も戦争の原因など思い出せないほど、長く不毛な争いを続けていた。どちらの星も、もはや疲弊しきっていたが、もし戦争に負けてしまったら異星人に何をされるかわかったものではないという恐怖と、ここまでの犠牲を払って、今更後戻りすることはできないという意地が、この哀れな二つの星が平和を取り戻すのを妨げた。
そんな折りに生まれたマールには手足が一本ずつ足りなかった。戦時中はどれだけ兵士の資質があるかで優劣が決まる。欠損のため、他と比べて武器の扱いが下手だったり、素早く移動したりできなかったマールはいつも皆に馬鹿にされた。
恥辱の日々に耐え、マールが二十歳になったとき、一人でも多くの兵士を欲する軍隊の思惑もあり、マールは他の青年と同じように戦地に送られた。そして、初めての作戦内容は、敵惑星の本土に降り立ち、一人でも多くの異星人を殺すことだと、鳩胸にぴかぴか光るバッジをたくさん付けた上官に説明された。部隊はマールのような欠損者で構成されていた。マールは、自分達は捨て駒なのだと悟った。
作戦当日、マールは今までに見たこともないほど装甲の薄い装備に着替え、惑星間を航行するカプセルに乗り込み、作戦開始時刻を待った。今日、確実に自分は死ぬ。それならば一人でも多くの異星人を殺してやる。気弱なマールは、逃げだしたい気持ちが溢れそうになる心の穴を、燃えたぎる異星人への憎悪で塞いだ。
どうにも愉快な気持ちだった。マール達捨て駒部隊はこの作戦で輝かしい戦果を挙げた。というのも、異星人達はマール達を全く警戒しなかったのだ。それもそのはず、異星人達の手足はそれぞれ2本ずつで、それ以外はカタラ星人と瓜二つだった。少々驚いたが、今となってはありがたいことだ。上官のものとよく似たぴかぴか光るバッジを胸に光らせ、3本の手と3本の足を持つ同胞に向けて、マールは1本足りない手を振った。
捨て駒部隊 久田高一 @kouichikuda
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます