第32話 ドラゴンライダー
今、俺はビルデに連れられて再びフェイの元へとやってきていた。フェイは俺達の気配に気づくと、ゆっくりとこちらに振り返った。
「あ、二人とも。そろそろ人間になった方が良さそうかしら」
「いえ、大丈夫です! それより、ちょっと上に乗っかってもいいですか?」
ビルデは目を輝かせてフェイを見ていた。恐らくフェイに乗って空を飛んでみたいのだろう。
「いいわよ。鱗があるから気をつけなさい」
「わーい!」
ビルデはフェイの背中に乗り、うつぶせになった。フェイは穏やかそうな顔で黙ってビルデを乗せている。
「……なあ、フェイ。俺も乗ってもいいか?」
「え、あぁ、もちろんいいわよ」
フェイは一瞬驚いたような顔をすると、俺を尻尾で持ち上げ背中に乗せた。フェイは体温が高く、足に温もりを感じた。
「フェイさん、私達を乗せたまま空とか飛べませんか?」
「飛べるけど……超目立つし危ないよ」
「そこは認識阻害もありますし、私の花創作で鞍を作れば問題ないですよ」
ビルデは食い下がる。完全に空を飛ぶ気満々だ。
「仕方ないわね。ちょっとだけよ」
「やったー! それじゃ鞍を作りますね」
ビルデは花創作で俺達とフェイを繋ぎ止める鞍を作成した。鞍は独特な構造をしていて、俺達を完全に固定している。
「本当に少しだけだからね」
フェイはそう言って翼を動かし、少しの間周りを旋回する。もちろん結界の範囲内で。
俺はフェイの上から地面を見下ろす。そこからは夕日に照らされ赤く染まった海が見えて、とても綺麗だった。
「おぉー! 風が気持ちいいですね! マグリスさんはどうですか?」
「これは中々楽しいな、ありがとうフェイ!」
「ふふ、でもそろそろ終わりよ。目立つからね」
フェイはゆっくりと下降していき、俺達を地面に降ろしてくれた。そしてフェイは体を変化させ、人間の姿になろうとした。
「待て、まだ人間になるな!」
俺は慌ててフェイに呼びかけるも既に遅く、服を着ていない少女が目の前に現れた。
俺は速攻で目を塞いでテントまで逃げる。見かけで物事を判断するなと言われても限度というものがある。
「逃げないでよマグリス! そんなにあたしが怖いの?」
突然叫び声と共に俺は地面へと押し付けられ、フェイにのしかかられる。
「違う、今回のは断じて違う! それにお前が良い奴なのは分かってる。だから頼む、どいてくれ!」
「フェイさん、今のは完全に関係ないですよ。……非常に言いにくいですが、フェイさんが服を着てないのが一番の問題だと思います」
後ろからビルデが姿を現し、フェイを引っ張って俺から退けてくれた。フェイは大人しく服を着ると、俺を不安そうに見つめた。
「大丈夫だ。俺はお前をちゃんと仲間だと思ってるし、危険な奴なんて思っていないから」
「……そうよね。あたし、調子乗ってデバフかけすぎて疲れてるのかも。今日はもう寝るわ、お休みなさい」
フェイはベッドに潜り込むと、それっきり顔を見せなくなった。するといきなりビルデが俺をフェイのベッドに放り込んだ。
「ひゃあ!?」
フェイはびっくりしてビルデを睨むが、ビルデはそれを無視してスキル「花創作」で俺達をベッドに拘束してきた。
「ほらほら、早く寝てください。二人の疑惑もこれで解消できますよ!」
「待てビルデ、本当にこれで解決すると思ってるのか!?」
俺は拘束から逃れようと体を動かすが、寝かされた状態からでは力が全然入らなかった。
「思ってます! あ、私もフェイさんの隣失礼しますね」
「お、おいフェイ! お前からも何か言ってやれ!」
俺はフェイに助けを求めるが、フェイは笑うばかりで何も反論しなかった。
「あたし、マグリスともビルデとも一緒に寝たことなかったのよね。そこがちょっと寂しかったのはあるのよ」
「え、マジでそれが解決方法なのか!? そもそもそれビルデが毎回強引にねだってくるだけだからな!?」
俺はたしかにビルデに一回許可をした。だがあれはビルデが俺を殺しかねない威力で抱きしめてきたからだ。
「でも仲良さそうじゃん。あたしそれのせいで疎外感があったのよ」
「それなら早く言ってくださいよ。
「勝手に俺も含めないでくれ……」
「さて寝ましょう! お休みなさーい!」
俺の抗議はビルデの声にかき消され、虚空へと消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます