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翌日、私はブリチェスターに住む知人たちとともに、十分な武装を整えた上でゴーツウッド村を訪れた。
私たちがゴーツウッド村へ到着したときには、すでにあの悪夢のような惨劇は終結していた。
ゴーツウッド村の生存者は一名。
それはつまり私のことで。
あの惨劇を逃れることができたのは、私のほかに誰一人として存在しなかったのである。
妻のシアも。そして二人の子供たちも。誰も。
私は、一夜のうちにすべてを失ってしまった。
愛する家族も。良き友人や隣人たちも。そして生きる目的も。
ただただ、私は嘆いた。
なぜ、あんなにも他人のことを思いやることのできる人格者であったシアが亡くならなければならなかったのか。
なぜ、何十年にも渡り、平和を保ち続けてきたゴーツウッド村が、たった一晩のうちに壊滅しなければならなかったのか。
たった一つの、あのロナルドという異物が紛れ込んでしまったために。
どんなに優れたシステムも、それが人々の善意から成り立っている限り、そこに一粒の悪意が混ざるだけで、たちまち機能不全を引き起こす。
どんなに幸福で満ちた世界も、そこに一粒の不幸が混ざるだけで、たちまち地獄に成り果てる。
私には、その事実が耐えられなかった。
なぜ、人は幸福で居続けられないのか。
なぜ、人は苦しまなければならないのか。
なぜ、人は……。なぜ、なぜ、なぜ……。
それが私の、新たなる人生の問いとなった。
私は、シアの実家を訪れ、そして地下室からシャンの女王が産み残した卵を見つけると、それを日本へと持ち帰った。
そして、私が日本に帰国してから、数十年の月日が経ったある日。
あのお方が私の前に現れて、そして、すべてを見せてくださったのだ。
――八木山医師の記憶、了。
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