24
白昼夢を見ていた。
忌まわしき、前世の記憶だ。
見ていた、は正確な表現ではない。
夢から醒めてなお、私はその夢に囚われ続けている。悪夢の侵攻は今も続いている。
朦朧とする意識のなか、私は歯を食いしばりながら山の中を歩き続けた。
一歩進むたびに、かつて、この地で罪を犯した男の記憶や感情が、私の心を蝕んでいく。
冷や汗が、額から顎を伝って、ぽたり、ぽたりと地面へ向かって滴り落ちる。
一歩一歩の歩みが、永遠とも思える程に全身は重く、怠い。
そんな久遠の歩みを何度繰り返した頃だろうか。
いつの間にか、私はあの場所と再会を果たしていた。
それは、かつての自分の人生を決定づけた場所。
運命の曲がり角。悪夢の始まりの地。
興奮、期待、焦燥、不安、嫌悪……。
さまざまな感情が、次から次へと生まれては消え、頭のなかをぐるぐるとかき乱していく。
この場に辿り着いて漸く、私はこの記憶が本物なのだと理解する。
それは理屈ではなく、もっと原始的な感覚。
本能からの理解。
ふと、木の根元に視線を向けると、そこに白い菊の花束が供えられているのが見えた。
生けられた花はどれも瑞々しく、まるで近所の花屋で買ってきたばかりかのように新鮮だった。
もしかすると、つい先ほどまで、ここで誰かがお参りしていたのかもしれない。
ふと小さな風が吹き、菊の強い香りが鼻孔を優しくくすぐる。
瞬間、こめかみに鋭い痛みが走った。
ふっと、意識が遠のく。
悪夢の侵攻が激しさを増す。
――ここで、私は……殺した……殺してない。
私のなかで眠りかけていた獣が、再び目を覚ます。
――殺すのは気持ちいい……良くない……イキそうだ……逝きたくない。
その獣は、私を食い破り、外へ出ようと暴れ出す。
―――殺す……嫌だ、私は……死ね……消えたくない。
―――ああああああああああ!
獣は雄叫びを上げ、私はそこで再び意識を失った。
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