5

 夢から覚めると、私は布団をまくり上げ、自分の下腹部を確認した。

 股間は、ほんのりと熱を帯びており、恐る恐る指先で触れると、それはしっとりと湿っていた。

 なんという夢を見てしまったのだろう。自己嫌悪に浸りながら、私は股間の湿りをティシュでふき取った。

 心に石でも投げ込まれたかのように、気持ちがずんと沈んでいく。

 あの夢も、前世の記憶のひとつなのだろうか。だとしたら、前世の私はどれだけの罪を犯したのだろうか。

 そんなことを考えながら、カーテンを開けるためによろめきつつ窓辺に近づくと、家の外が何やら騒がしいことに気付く。

 カーテンの隙間から外を覗いてみると、正面のアパートに人だかりができているのが見えた。

 何か事件でもあったのだろうか。

 しばらく様子を伺っていると、けたたましいサイレン音とともに、救急車と警察車両が到着した。

 嫌な予感がした私は、急いで外着に着替えて、アパート前に駆けつけた。

「あの、このアパートで何かあったんですか?」

 人だかりに向かって、私は声をかけた。

「あぁ、なんでもこのアパートに強盗が押し入ったとか」

 それに答えた中年の男性も、事態をきちんと把握できていないようで、伝聞口調でそう答えた。

 ちょうどその時、アパートの中から被害者と思しき女性が担架に乗せられて運び出されてきた。

 私は、その顔を見て驚愕した。

 その顔は、まさしく夢のなかで私が殺した女性の顔だった。

 その事実に気付いた瞬間、私の頭から一気に血の気が引いていった。

 ――嘘だ。そんなはずはない。

 体温が急激に下がっていく。

 あまりの肌寒さに震えが止まらず、歯がガチガチと音を鳴らす。

 ――寒い……寒い、寒い、寒い。

 目の前の景色は、どんどん遠ざかっていき、真っ黒な影が視界の隅を覆っていく。

「おい、お嬢ちゃん。あんた顔が真っ青じゃないか。大丈夫か?」

 私の異変に気付いた男性が驚きの声を上げる。

「いえ、大丈夫です。お気になさらず」

 私はそう答えると、よろける足取りを必死に隠しながら、駆け足で自室に戻った。

 自室に戻った私は、すぐさま部屋のゴミ箱を漁った。

 やがて、ゴミ箱の底の方からくしゃくしゃに丸まった目的のチラシを拾い上げると、それを丁寧に伸ばし広げた。


 最近、超常現象にお困りではありませんか?

 家のなかのものが勝手に動く、見えない何かに後ろからつけられている、毎日夢のなかで同じ怪物に殺され続けている。

 でも、こんなこと誰にも相談できない。警察も頼れない。

 そんな、不可解、不可思議、常人では解決不可能な難事件はぜひ、オカルト事件の専門家にお任せください。

 私の悪魔的な頭脳を持って、必ずや、あなたのお悩みを解決してみせましょう。

 悪魔探偵、遊間大。


 ――オカルトなんてふざけてる。

 今でも、そう考えている自分がいる。

 しかし、自分が人を殺してしまったかもしれないという恐怖が、私をなりふり構わなくさせていた。

 今の私を助けてくれるのなら、例えそれが悪魔だとしても構わない。

 私は、チラシにあった住所を確認し、玄関の扉を開いた。

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