第51話 氷川家の台所

「はあぁ…京ちゃん…。」


私は部屋着の上にフリル付きのピンクのエプロンを身に付け、夕食の手伝いで、ポテトサラダ用のじゃがいもをザクザクとつぶす作業をしながら、京ちゃんの事を考えていた。


ザクッザクッザクッ…。


私の頭を撫でてくれた大きくて温かい手の感触…。

とても気持ちよくって幸せだったなぁ…。


今日は、剛田先輩をぶっ飛ばすところ見られちゃったな。


駄目な私を叱りつつ、こんな何度もやらかすような女を見捨てないでいてくれた。


ザックン、ザックンザックン…。


それにしても、何度もパンチラしていたなんて恥ずかしかったなぁ。

私、京ちゃんの前では、ガード緩んでるのこな?そんなに短いスカート穿いてない筈なのに…!今度から気をつけなくっちゃ…!


ザクザクザックン、ザクザクザックン…。


「…いこ、芽衣子!じゃがいも、ボールからこぼれてる!」

「はっ!」


お母さんの声に、気付くと潰したじゃがいもが半分くらいこぼれて、床に飛び散ってしまっていた。


「ああっ!ごめん。お母さん!」


「いいわよ。後はお母さんがやっておくから、芽衣子は、これ、リビングに持って行って?」


お母さんは苦笑いしながら、私にお茶と家族全員分のコップを載せたトレーを手渡した。


「ハ、ハーイ。」

私はしょんぼりと、リビングに向かった。


静くんが、ソファーでくつろぎながら、珍しく笑みを浮かべて、メールを打っているところを見てしまった。


はーん。メールの相手は彼女の新庄さんだな?


「静くん、相変わらずラブラブだねぇ。」


ニヤニヤしながら、声をかけると、いつものように罵声が飛んできた。


「バカ芽衣子、キモッ。大体美湖じゃねーよ!相手、矢口さんだよ!」


?!


「え、京ちゃんから?何で!?」

「あっ、オイ、勝手に…!」


静くんのスマホの画面を覗き込むと、本当にメールの相手は京ちゃんで、何軒かのラーメン屋さんの情報をホームページのUTR付きで、送ってくれているようだった。


「な、なんで嘘コクデートをした私より先に弟の方がメールをもらっているの?!」


「嘘コクデートだったからだろうよ。アホが!」

「ぐう…!」


動揺してパニクるも、正論を返され、ぐうの音しか出ない私。


「あんないい人、いつまでも振り回してんじゃねーよ?告るなら告るでちゃんとしろよ?」


「そ、それは分かっているけど、まだその時期じゃないというか…。」


今日の静くんは、やけに、いっぱしの事を、言うな。姉の立場がないよ。


「ハァ。とんでもねー事しでかす割には肝心のところでチキンだな。

試合の日、お前見学に来るんだろ?矢口さんも呼んだらどうだ?コレ、チラシ。」


静くんはテーブルの上にキックボクシングの試合の概要が書かれたチラシを置いた。


「あ、ありがとう!いいの?」


「ああ、美湖もその方が安心するだろうしさ。」


ああ、嘘コクデートの時、新庄さんに私達の仲を疑われてたもんね。


そう言えば、あの時気になっていた事があったんだよな。


「静くんさぁ、喫茶店で私が京ちゃんの事で怒っていた時、新庄さんに耳打ちしてたけど、何を言ったの?その後、新庄さんの態度がコロッと変わった気がするんだけど。」


「ああ。矢口さんへの悪口はすぐ取り消した方がいい。俺は前に、それやって芽衣子に半殺しの目に遭った事があるって言ったんだ。」


「ええ?そんな事言ってたの?いくら私でも、女の子殴ったりしないし!静くんにそんなひどい事した事あった?」


「あった!矢口さんの小さい時の写真見て、ヒョロくて弱そうな奴って言ったら、練習でズタボロにされて、気付いたら、次の日になってた事があった。」


ん?ああ〜、お母さんが再婚して引っ越してすぐの小4ぐらいの頃にそんな事があったような…。


「あの時は、静くん練習に疲れて寝てるんだとばかり思ってた。」


「気絶してたんだよ!」

静くんは噛みつくように言った。


そこへ、夕食を載せたトレーを持ったお母さんが通りがかった。


「何なに?二人で何の話?」


テーブルに置いてあるチラシを見て、申し訳なさそうな顔になった。


「あっ、試合かぁ…。ごめんね、静くん!この日はお母さん、どうしても外せない仕事があって、行けなくて。」


「ああ、いいよ。そんなの。お弁当も無理だったらコンビニ弁当にするし。」


「いえいえ、行けない分せめてお弁当だけは、たくさん作って置いていくからね?」


お母さんは気合いを入れるように、握り拳を作った。


「ああ〜、でも残念だわ!試合も応援したかったし、静くんの彼女さんと、もしかしたら、久々に京太郎くんにも会えるかと期待してたのに!」


「んん?」


私は瞬きを繰り返して、お母さんを見返した。

年齢以上に若々しく、綺麗で、スタイルがよい自慢のお母さん…。

昔からほとんど変わっていない。

それこそ、おそらく小学生位の頃から…。


「だから、静くんの彼女さんと京太郎くんに会いたかったなって事。今度違う機会にそれぞれ家に遊びに来てもらったらどうかしら?」


「ええー。いーよ。別に…。」


静くんが面倒くさそうに答えるのを聞きながら、私の頭の中でゆっくりとこんな図式が出来上がった。


お母さんが、京ちゃんに会う

=即、めーこだと身バレする


「それ、ダメェ!絶対!!」


「??」


私が大声で叫ぶと、お母さんは目を丸くした。




*あとがき*


嘘コク三人目の話はこれで終わりです。間にデート編をはさんだので、ちょっととっ散らかってしまいましたかね(^_^;)


分かり辛かったら、すみませんm(__)m💦


デート編を抜かして読み直して頂けると分かりやすいかも…。


また、申し上げにくいのですが、ちゃんとしたざまぁがあるのは二人目、三人目のみで、四人目からは明確なざまぁがありません。


嘘コク四人目以降は想いの種類と程度の差はあれ、皆京太郎に好意を抱いており、その想いが報われない事が

結果的にざまぁになるかと…💦

(六人目はそもそも、ざまぁの必要もないのですが…。)


四人目は、芽衣子ちゃんも京太郎くんも色々悩むものの、ギャグしか印象に残らない話となっています(^_^;)

テーマとしては深刻な筈なのにどうしてそうなってしまったのか…。


色々ご心労おかけして申し訳ありませんが、

今後もどうかよろしくお願いします

m(_ _)m💦💦


四人目に行く前に、次回は一話のみ女子会の話になります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る