第39話 毎々軒 営業中(後半はめーこの提供でお送りします。)
京ちゃんに、連れて来てもらったラーメン屋さん=毎々軒は、昭和感漂うこじんまりした
お店で、ところどころに配置してある、招き猫の置き物や、植物の絵が書かれた古びた掛け軸が可愛かった。
店長とその奥さんも、とても親切で、いい人。
とんこつラーメンもとても美味しい。(メニュー選びのとき、うっかり昔の話をしそうになっちゃったけど、何とか誤魔化した。)
そして、何より目の前には愛しの京ちゃん!
私は幸せを噛み締めながら、ラーメンを口いっぱい頬張った。
美味しそうに食べてるなぁと、京ちゃんに笑われてしまった。ちょっと恥ずかしい…。
けど、静くん(彼氏役)の事について聞かれて、困ってしまった。
うまく噓をつき通せる自信もない私は、彼氏である設定以外は、正直に静くんとの普段の関わりを話してしまったが、
普段からそう仲のいい姉弟とは言い難い私達
の関係は、彼氏彼女のそれからはかけ離れてしまっている事に気付いた。
どうしよう?
静くん(彼氏役)の事を話せば話す程、どんどんボロが出ちゃう。
京ちゃん、絶対
(え?それ、本当に付き合っているの…?)
って疑問に思ってるよね。
どうせ、後で私を振ってもらい、それ以降は出てこない設定の偽装彼氏だ。
今日一日は何とか乗り切らなければ…!
そんな決意を込めて私は宣言するように言った。
「いいんです。彼に止めてくれる気持ちがないのなら、私の方も、今日ですっぱり関係を断ち切ろうと思いますから。多分そうなると思います。」
ただ、静くん、マイペースだからな。
ちゃんと来てくれるか、心配だ…。
「まだ分からないじゃん。彼氏さん、止めてくれるといいね。」
京ちゃんはそう優しく笑いかけてくれたけど、私はツキンと胸が痛んだ。
そっか、他の男の人と上手くいくよう応援してくれるんだ…。
そうだよね。京ちゃんは私が誰と付き合おうがどうって事ないものね。
嘘をついている私が悪いんだもの。
そんな分かりきった事に傷付いても、自業自得だ。
私は寂しい気持ちになりながら、一生懸命笑顔を浮かべた。
なんとなく、しゅんとした雰囲気で、京ちゃんも私も黙ってしまったところへ、
そっとテーブルにデザートのようなものが、差し出された。
「え…?」
「これ、サービス。ちょっとしかないけど、よかったらどうぞ?」
奥さんがニッコリ笑ってウインクしてくれた。店長の源さんも、厨房から親指を立ててくている。
「「あ、ありがとうございます。」」
小さな透明のデザート皿に盛り付けられていたのは、クコの実が飾られた杏仁豆腐だった。
「本当に、すごくサービスいいですね?」
「いや、デザートなんてつけてくれたの、初めてなんだけどね?」
京ちゃんは苦笑いしている。
一口スプーンで口に運ぶと滑らかな杏仁豆腐の食感と、仄かな甘みが感じられた。
「ん、おいしい…。」
「うん。うまい…。」
店長と奥さんと、心遣いが胸に染みた。
うん。落ち込んでても、しょうがない!
今京ちゃんが、私の事を何とも思っていなくても、これから少しずつ頑張っていくしかないんだ。
私はリスクを冒してでも、以前から京ちゃんに聞いてみたかったことを聞いてみた。
「きょ、京先輩は、異性の幼なじみとかいないんですか…?」
「んー?俺陰キャの上、いじめられっ子だったからなぁ、同い年の女子とかは強いし、怖いし、仲の良い子はあんまりいなかったかなぁ。
あ。でも、小学生のとき、一人いたな。仲いい子。同じ登校班で、一つ下の学年の女の子で、一年足らずで転校しちゃったんだけどね。」
!! 私の事だよね?京ちゃん、思い出してくれた?
落ち着け、芽衣子。落ち着いて当時の事を聞き出すのよ。
私は高鳴る胸を抑えて、京ちゃんに更に聞いた。
「へ、へ、へぇー。こ、この前、私に小さい頃の事聞いてたのって、その女の子と、私がもも、もしかして、似てたり…し、したんですか?」
ちょっと噛んじゃったかな?
「ああ、髪の毛が茶色いところと、名前が同じだったんだ。」
そう言って、京ちゃんは懐かしそうに目を細めた。
「『めいこちゃん』…?」
自分で自分の名前を言うの、なんかこそばゆいな…。
「うん。俺は『めーこ』って呼んでた。芽衣子ちゃんの名前と漢字も全く同じで、しかも
同じ茶色い髪だったから、もしかして、芽衣子ちゃんが『めーこ』かもって思っちゃったんだ。」
「そそ、そうだったんですね…。」
「よく考えて見れば、性格とか全く違うのにね?」
「えっ?」
同一人物ですけど!性格違うって言われちゃった!?
「『芽衣子ちゃん』は天然で、面白い子だけど、『めーこ』は大人しい子だったから。」
え…?京ちゃんにとって、今の私天然で面白いキャラなの?
三枚目枠って事…?
若干ショックだった。
まぁ、小さい頃は陰キャだったのは、認める。というか、ぶっちゃけ、今でも中身はそんなに変わっていないのだけど…。
「あ、でも、その子普段は物静かなんだけど、時々妙に思い切りよかったり、感性が独特のところはあったな。」
「えっ。ど、どんな風にですか?」
「うん、お母さんの誕生日に、その子、似顔絵を描いたんだけど、皺とヒゲを克明に描きすぎて、お母さんに泣かれてたな…。
あと、お菓子の景品を側溝に落として、探すためにドブに飛び込んだりしてたな…。」
「は、はうぅ…!こ、個性的な子だったんですね…?」
私は顔から火が出る思いで、手で顔を覆った。
何でそんな事ばっかり覚えてるの、京ちゃん…!
自分が『めーこ』だと余計に言い出し辛くなっちゃったよ…。
「うん。まぁ、そういうとこもあったけど、心の優しいいい子だったよ。」
「京先輩(京ちゃん)…。」
微笑んでいる京ちゃんの様子から、「めーこ」を大事に思ってくれていることを感じられて、嬉しかった。
何だか京ちゃんのお顔が見れなくて、窓の外を眺めていると、少し離れたところからこちらを覗っているジャケット姿にサングラスをした長身の男の人に気付いた。
こちらの視線に気付くと、その場をすぐに立ち去って行った。
今の、背格好からいって、静くん…かな?
来てくれるか心配だったけど、ちゃんと付いてきてくれたみたい…。
だけど、静くん、あんな高そうなジャケット持ってたかな?もしかして、報酬で買ったとか?
まぁ、報酬を何に使おうと、静くんの自由だから別にいいのだけど…。
*
*
*
「「ごちそうさまでした。」」
会計は双方が「私が奢ります!」「いや、俺が奢るって!」と主張し、一歩も引かなかったため、結局それぞれ自分の分を自分で払う事になった。
「兄ちゃんも、美人の嬢ちゃんも、また来てな!いやいや、最初はあんまり綺麗な子連れてきたから、兄ちゃん、もしかして騙されてんじゃねーのか心配してけど、普通にいい子じゃねーか。よかったな。このこのっ。」
「いていて、痛いよ、源さん。」
京ちゃんは困った顔で店主の源さんに肘で突かれていた。
「いつもうちに食べに来てくれてた、メガネかけたお友達と、ぽっちゃりしたお友達も、それぞれ女の子と、来てくれたし、なんか皆春だねぇ!そういや、学校の名前も青春高校だっけ?ピッタリな名前だな。
今度また、皆で食べに来てくれよな。サービスするからさ。」
「はは…。はい…。」
京ちゃんはお友達が彼女さんらしき人と来ていた事を知り、苦笑いしていた。
「ごめんなさいね〜。もうウチの人、テンション高く、絡んじゃって。これに懲りず、また来てね。」
「はい。また絶対来ます…!」
次にここに来るときは、京ちゃんのお友達カップルさんみたいに、本当のデートで来れるといいな…。
私はそんな希望と決意を込めて、私は深く頷いた。
*あとがき*
いつも読んで頂き、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます
m(_ _)m
来週もどうかよろしくお願いします。
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