第20話 校内放送 オンエア中
『はぁっ!』
放送室の壁に吊るされたスクリーンには
テニス部のエース、2年の蓮見大和が、華麗なスマッシュを相手コートに打ち込むシーンが映し出されていた。
対戦相手はボールにラケットをかすることもできず、それが決め手となり、ゲームセットとなった。
そして、蓮見の顔のアップになり、白い歯をキラッと光らせた爽やかな笑顔を見せた。
『君たちも、俺と一緒に爽やかな汗をかかないかい?まだまだ部員募集中。よろしく!』
うわ、チャラい。そんなセリフよく言えるな。こっちが赤面するわ。
校内放送今まであんま、ちゃんと見てなかったけど、こんなんだったっけ?
初めて入った防音の放送室の中は結構狭く、その大部分は、イスに座って向かい会うコメント役の秋川と芽衣子ちゃん、放送委員の田橋のインタビュー用のスペースとして占められていた。
放送委員はその周りに要所要所に配置されており、パソコンや、学校全体への放送機材の操作をする者、音響担当の者、インタビュー用のカメラを扱う者、進行を管理する者、様々だった。
俺は、一番隅っこで立ち見学していたが、放送委員が近くを通る度に、邪魔にならないよう壁際に張り付いていた。
動画が終わると、画面が切り替わり、
インタビュー用のカメラから撮影されている画像が、スクリーンに映し出された。
「『今日の有名人』一人目はテニス部の蓮見大和でした! 2年の天使と評判の秋川栗珠さん。どうでした?」
放送委員の田橋が、慣れた口調で秋川にコメントを求める。
「蓮見くん、すーごくかっこ良かったですー!テニス、私もかじったことあるんですけどぉ、狙った位置に打ち込むの難しいんですよね。何度も正確な位置にスマッシュ打ち込める蓮見くん、ホントリスペクトしかないですぅ。」
ゆるふわのツインテールを揺らしながら、くるくる変わる表情で、そうコメントする秋川は、自分がどう立ち振る舞えば可愛く見えるかを知り尽くしていた。
秋川の本性を知らない人には、画面の彼女は可憐に輝いて見えることだろう。
「では、1年で清楚な美少女と人気の氷川芽衣子さんはどうでしたか?」
田橋が、芽衣子ちゃんにも質問を向ける。
「あっ。はい。さ、爽やかでした。は、歯が…。」
緊張気味の芽衣子ちゃんの回答に、ぶふっと噴き出しそうになった。
「は、歯…ですか…?」
田橋が戸惑っていると、秋川がフォローを入れた。
「氷川さん、天然なんですよ。可愛いでしょう?」
芽衣子ちゃんの肩にポンと手を当てて、
にっこり笑った。
「爽やかなスポーツマンで素敵だったって事だよね?」
カチンコチンになった芽衣子ちゃんが、必死にうんうんと頷いた。
「あははっ。なるほど。そういう事。コメントありがとうございましたー。では、次の動画行ってみましょう。」
田橋がそう言うと、画面を切り替わり、次の有名人の動画が写っていた。
芽衣子ちゃんはフォローしてくれた秋川に小声でお礼をいっている。
傍から見たら、後輩のフォローまでする非の打ち所がない美少女。
容姿から言ったら、芽衣子ちゃんも秋川と同じかそれ以上の美少女だが、この放送企画においては、明らかにトーク力と対応力で勝る秋川の方が目立っていた。
もしかして、芽衣子ちゃんを呼んだのは、自分の引き立て役にするためだったのだろうか?
性格悪くて、地味にムカつくが、その程度だったら、まだマシかもしれない。
変な噂を流されて、評判を落とされたりするよりは…。
芽衣子ちゃんの言うとおり、全校生徒が見ているお昼の放送の中で、そんな無茶な事はできないよな…、と半ば安心していたときに異変は起きた。
「大変だ!田橋くん…!」
壁際の機材を担当していた放送委員が、青い顔をして、インタビュースペースに駆け込んできた。
「どうした?山下?」
「最後に流す予定の動画のデータがないんだ!」
放送委員の山下はUSBメモリの保管ボックスを指差して、叫んだ。
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