第8話 晴れ晴れとした笑顔
「おい、柳沢。お前ゴミ捨てにどんだけ時間かかってんだ?」
俺は、軽い足取りで教室に入ってきた柳沢に文句を言ってやった。
「あ、ごめんごめん。ちょっと、途中で
ガールズトーク盛り上がっちゃって。あれ?他の掃除当番の子は?」
「もう皆帰ったよ。」
「矢口は何で残ってんの?」
「さっきまで、教室にお前のイケメン彼氏が迎えに来てて、ちょっと喋ってたんだよ。」
「あっ、ヤバい!涼くんと一緒に部室行く約束してたんだった!」
俺はため息をついた。
「おいおい…。彼氏との約束忘れてんなよ。今、1階の自販機で飲み物買ってすぐ戻るって言ってたから、ここで待っててやれよ?」
「あ、うん。そうする。ありがとう。」
「おう。じゃ、またな。」
そう言って、軽く手を挙げ教室を出ようとしたところ…。
「あ、待って矢口。」
「あ?」
呼び止められて、振り向くと、柳沢は晴れ晴れとした笑顔を浮かべていた。
「矢口。あんたは、あたしなんかと会ったせいで散々な目に遭ったし、こんな事を言われても、ふざけんなって思うかもしれないけどさ。
私はあんたに会って、友達になれて、本当によかったと思ってるよ。今日はそれを再確認した日だった。」
「お、おう…?急にどうした?」
「とにかく、これからはさ、あんたに申し訳ないっていう顔をするよりも、友達としてあんたの春を積極的に応援することにしたから!」
「春?」
俺が訝しげに問い返すと、柳沢はニマニマして含み有りげに言った。
「そ、春だよ春…。」
何だか、さっきから柳沢の様子がおかしい。変なものでも食ったのだろうか。
「お、おう?そうか、楽しそうで何よりだな。じゃ、俺はこれで。」
「うん。矢口、また明日。」
俺が引き気味に、挨拶をすると、柳沢は笑顔でひらひら手を振った。
俺は帰り道、首を捻りながら考えていた。
一体柳沢の態度は何だったのだろうか?
春ってなんだ?
あいつ、イケメン彼氏とラブラブすぎて、頭にウジでも湧いてんじゃないのか?
だけど、柳沢が俺の前で、笑顔を見せるのは久々だったな。
最近では、俺が嘘コクされる度に死にそうな顔をして俺を心配してくる姿しか目にしていなかった。
あの春の空のように晴れ晴れとしたあの笑顔に惹かれていた時があったな…と、
思い出さなくていい事を思い出したりしていた。
それから…、今日屋上で嘘コクしてきた氷川さんの必死な表情、そして、偶然見てしまったピンクの水玉にくまさんプリントのパンツを思い浮かべた。
春…ねぇ…。
俺にはまだ遠いと思うけど…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます