どうやらぬいぐるみに愛を注ぎすぎたようだ
飛浄藍
プロローグ
――僕は君に一目惚れしたんだ。
そう思った次の瞬間、僕の右足は前へと踏み出していた。
透き通るガラス越しに見える華奢な体躯。光を柔軟に反射する整った毛並み。短い手足。そして何より黒光りする二つの瞳は僕の目を離してくれない。
それら全てに僕は魅了されてしまったんだ。
僕は思い切って声をかける。ガラス一枚隔てた彼女に声は届くだろうか?
返事はない。応答しているのかも分からない。だがそれは序章に過ぎない。ここからが本番なのだ。
財布から有り金を引っ張り出し、彼女をおとしいれようとする。
(くっ、今日はなかなか粘るじゃないか……)
だがそれは僕の欲求をさらに掻き立て、熱い炎の中へと誘っていく。やがて全ての感覚は遮断され、僕と彼女だけの世界が構築される。
持久戦へと持ち込まれては厄介だ。しかしそんな焦燥も払拭し、ただ吊り上げることだけに集中する。
(よし、ようやく落とせた!)
つい彼女の前で拳を握りしめてしまう。良くない癖だと分かってはいるんだけどな……。
だが僕が彼女を手に入れたという事実は変わらない。今は僕の、僕だけのぬいぐるみだ。
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