第3話 赤ずきんの謝罪配信
眠り姫の突然の提案に赤ずきんは戸惑いました。
「えぇ~!!わ、私がですか!?関係ないじゃないですか、私!」
「私は謝る気はない。でも、あなたは謝った方がいいと思うんでしょ?だったら、赤ずきん。あなたが謝ればいいんじゃなくって?」
そういうと眠り姫は、パソコンを開きカメラとマイクをセットしました。
「じゃあ、赤ずきん!いきなりだけど本番行っちゃうから。心の準備はいい?」
あまりの急展開に赤ずきんはあたふたしながら答えました。
「え?え?ちょ、ちょっと待ってください!私が謝罪動画撮るんですか?それ、わけわからなくないですか!?動画出したのは眠り姫さんですよね!?…っていうかそもそも眠り姫さんのチャンネルだし、これ!!」
「だって、謝った方がいいって言ったの赤ずきんでしょ?それにチャンネル盛り上げるために出てくれるってさっき言ったじゃない?コラボってことでいいんじゃないかしら。」
「コラボの企画が謝罪っておかしくないですか!?」
「つべこべ言わずに…はい!スタート!」
眠り姫は、勝手に動画を撮り始めてしまいました。
困った赤ずきんでしたが、とりあえずしゃべってみました。
「…えっと~…み、みなさんこんにちは!グリム童話の赤ずきんで~す!え、えっと…あ、謝罪なのにテンション高すぎるか…。え~…みなさん、赤ずきんです。先日の動画の内容に不適切な…えっと…え~……あぁ!ダメだ!すいません、眠り姫さん!最初からやりなおさせてくれませんか?」
赤ずきんはそういって眠り姫の方を見ました。すると、眠り姫は大きく首を横に振って小声で言いました。
「…これ、生配信よ…!」
眠り姫の信じられない発言に、赤ずきんは背筋が凍り付きました。
なんと、眠り姫は生配信を始めていたのです。
赤ずきんが慌ててパソコンを見てみると、そこにはリアルタイムで視聴者が打ったコメントが流れていました。
赤ずきんは小声で眠り姫に言いました。
「ちょっとぉぉお!!(小声)。なにやってるんですかぁぁ!!(小声)。」
「何かしゃべって、赤ずきん!(小声)。視聴者が減ってくわよ~!(小声)。」
「この際、減ってくれた方がいいですよ!(小声)。とにかく、今すぐに終了してください!(小声)。」
「無理よ!(小声)。生配信を始めた手前、何かやらないと終われないわ!(小声)。」
「な、何やればいいんですか!?(小声)。」
「謝罪するんじゃなかったの?(小声)。」
赤ずきんは、ゆっくりとパソコンに向き直り、カメラを見ておどおどしながら話し始めました。
「み、みなさん。…こ、こんにちは。赤ずきんです…。…き、聞こえてますでしょうか?」
赤ずきんは視聴者にそう問いかけて、コメントを見ました。すると、赤ずきんはあることに気づいて、さらに焦り始めました。なんと、先日のドッキリ動画のせいで、コメント欄に荒らしがわいていたのです。
コメント欄には、『え?なんで赤ずきんちゃんが?』、『今どういう状況?』、『なんかわからないけどがんばれ~』などの健全なコメントと『つまんな』、『パクリ乙パクリ乙パクリ乙……』、『ブッサwチャンネル登録解除するわw』などの荒らしコメントが入り混じっていました。
赤ずきんは、必死にコメントを目で追いました。
「…えっと、こ、声の大きさとか大丈夫ですかね?…あ、ちょっと小さいですか?じゃあ、ちょっと大きくしますね…。…えっ、そんなことない?え、あっ…すいません、大きくしてしまいました…!えっ…う、うるさい?す、すいません!…い、今、戻しますね…!」
赤ずきんはパニックになっていました。初めての配信なので無理もありません。次から次へと流れてくるコメントに翻弄され、赤ずきんはどうしていいかわからなくなっていました。
すると、そこに1つのコメントが流れてきました。
それもただのコメントではありません。スーパーチャットです。
その黄緑色をした500円のスーパーチャットにはこう書いてありました。
『赤ずきんちゃんのこと大好きです!生配信がんばってください!!』
そのスパチャを見て赤ずきんは、なんだかとてもスッキリと落ち着いた気分になりました。
こんなにひどいコメント欄の中にも私のことを応援してくれてる人が確実にいる。そう考えるとなんだか勇気が湧いてきました。
赤ずきんは冷静さを取り戻しました。
「えー、みなさん。初めまして、赤ずきんと申します。眠り姫さんの代理で生放送をさせていただきます。」
もう、赤ずきんに戸惑いや恐怖はありませんでした。赤ずきんは、落ち着いた様子で話し始めました。
「今回、私から皆さまに謝罪することがあります。先日、うちの眠り姫が出したドッキリの動画が、ドッキリとしての一線を越えており、ターゲットの白雪姫さんや視聴者の皆さんを不快にさせるものでした。そのため、私が眠り姫の代わりに、この場を借りて謝罪したいと思います。本当に申し訳ありませんでした。」
赤ずきんは深々と頭を下げました。しかし、表情は凛としていました。
そして、顔を上げた赤ずきんは再びコメント欄を見ました。
コメント欄は相変わらず荒れています。心無いコメントもいっぱい流れてきました。しかし、赤ずきんはもう気にしません。なぜなら、赤ずきんを応援してくれているコメントも確実に存在するから。
赤ずきんはしばらくコメントを見ていました。すると、またまたスーパーチャットが送られてきました。それも今度は1000円のものでした。
やっぱり、赤ずきんを応援してくれる人はいっぱいいます。しかも、その中にはこうやって投げ銭をしてくれる人までいます。
「xxxさん、スパチャありがとうございます!」
赤ずきんは、意気揚々とスパチャのコメントを読み上げました。
「えっと~、なになに?『謝って許されると思ってんの?引退しろブス』…。…………今日の配信は終わりにしたいと思います…。…ありがとうございました。」
赤ずきんがそう言うと、眠り姫は配信を切りました。
しばらく、沈黙が続きましたが、やがて赤ずきんは静かに立ち上がりました。
そして、急に叫びだしました。
「ざっけんなぁあああ!!」
赤ずきんは地団太を踏みました。
「あいつらぁ!!せっかく人が謝罪してやってんのによぉぉお!!素直に受け止めろやぁ!くそがぁ!!それにファンよりアンチのスパチャの方が高額ってどういうことだぁあ!!アンチがファンのスパチャを超えてくんなぁ!!なんか、ファンの思いが安っぽくみえるだろうがぁぁあ!!!」
眠り姫は、呆れた様子で怒髪天を超えた赤ずきんを見ていました。
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