グリム・クライシス!
正妻キドリ
第1話 嘘松姫とFF外ずきん
ここは、グリム童話のキャラクター達が暮らす国、グリム・キングダム。
その王国の片隅にある、田舎ではないが都会とも言い難い、小さくも大きくも無い中途半端な大きさの町に、赤ずきんが住んでいます。
「ええっ!?今からですか!?」
赤ずきんは慌てて聞き返しました。
「そ、そんな急に言わないでくださいよ。毎回、言ってますよね?来る時は前もって知らせておいてくださいって!」
赤ずきんは困っているようです。どうやら、電話の相手が今から急に押しかけてくる様です。
「私も暇じゃないん…あれ?…も、もしもし?もしもし!?」
相手は勝手に電話を切ってしまいました。
「…はぁ、全くあの人は…」
赤ずきんはそう言って、肩を落としました。実は、こういうことは初めてではありませんでした。電話の相手はいつもアポ無しで、急に訪ねてきます。
電話が切れてからほどなくして、ピンポーンとインターホンがなりました。
「…はーい、開いてますよ…」
赤ずきんは力無く答えました。
すると、玄関のドアをバーン!!と開けて、1人の女の人が家の中に入ってきました。
「赤ずきん!聞いてちょうだい!」
その女の人はそう叫ぶと、赤ずきんのところへ真っ直ぐ歩いてきました。
「はあ…どうしたんですか?眠り姫さん。」
その女の人こと眠り姫は、赤ずきんの前に来て、堂々と腕組みをして立っています。
「遂にわかったのよ、解決策がね!スバリ、SNSをやればよかったのよ!」
眠り姫は、金色の長い髪を払いながら言いました。
「あの…、端折り過ぎててなんの解決策かわからないんですけど…。」
赤ずきんは、戸惑いながら質問しました。すると、眠り姫は呆れた表情をしながら、その疑問に答えました。
「なんのって、もちろん、グリム童話が今の時代でうまくやっていくにはどうすればいいか問題に決まってるじゃない!」
両手を広げて、赤ずきんを見下ろしながら、自信満々に眠り姫は答えました。
赤ずきんは、それを呆れた表情で見ていました。
「はぁ…またそれですか。いやでも、別にグリム童話って今でも有名じゃないですか。充分上手くやれてると思うんですけど?」
それを聞いた眠り姫は、「甘いわよ!!」と大声で叫んで、赤ずきんを指さしました。
「それじゃあ甘いわよ!あなたの考えはお菓子の家並みに甘いわね、赤ずきん!」
「いや、いいですよ…無理矢理グリム童話で例えなくても…」
「いいこと?時代というのは常に変化してるのよ。人々の趣味趣向が目紛しく変わっていく中、いつなんどきグリム童話が忘れ去られてもおかしくはないわ!」
眠り姫は、そういうとスマートフォンを取り出しました。
「そこで私はツイッターをやることにしたわ!ツイッターに毎日ツイートをすることで、グリム童話を今よりもっと盛り上げて、忘れられないようにしようってわけ。」
眠り姫はスマホの電源を入れて、画面を赤ずきんに見せました。画面にはツイッターアカウントのプロフィール情報が写されていました。
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ねむりん☆(眠り姫)
@¥÷%〆・+:^
グリム童話の眠り姫です。いばら姫ともいいます。
Youtube→÷×+÷€8<:<%1\<〆<・:
フォロー xx フォロワー xxxx
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ねむりん…?眠り姫だからねむりん?
「…それが眠り姫さんのアカウントなんですか?」
「そうよ!最近作ったからあまりツイートはできてないんだけど、既に結構な数の人が見ているわ。」
確かにフォロワーは、まあまあの数います。しかし、赤ずきんが気になったのはツイートの方でした。
「どんなツイートをしてるんですか?」
赤ずきんに聞かれた眠り姫は、スマホをスワイプして過去のツイートを遡り始めました。
「そうねぇ…直近で1番伸びたのはこれかしら。」
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最近、女性蔑視だとか差別だとかで、企業の宣伝やら広告やらがたまに差し替えになる時あるけど、私は女性だけど1度もそう思ったことはないし、なにも考えずに脊髄反射でクレーム入れたりしちゃう方がよっぽど哀れな思考だと思う。
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「ちょっとぉおお!なに呟いてるんですかぁ!!」
赤ずきんはつい、眠り姫に叫んでしまいました。
「な、なによ、急に叫んで。これは、過去に伸びた他人のツイートをパク…参考にさせてもらって書いたのよ。なにか問題でも?」
「問題だらけですよ!!」
眠り姫は、なにが問題なのかさっぱり分からないわとジェスチャーで示していました。そんな眠り姫に赤ずきんは捲し立てる様に言いました。
「いいですか!?蔑視とか差別とかはとてもセンシティブな問題なんです!ほら、見て下さい!リプ欄で論争起きてるじゃないですか!人の正義と正義がぶつかり合うんです!だから、あまり気軽に触れていい問題じゃないんですよ!あと、なんかツイートの内容もパクったって言いかけてましたし!」
「そんなに怒らなくてもいいじゃない!私だって、別に本気で世の中を変えてやろうと思って呟いたわけじゃなくて、純粋にいいねとリツイートが欲しかっただけよ!いっぱいね!」
「そんなの言い訳になりません!どうするんですか!?グリム童話が色んな人から攻撃され出したら!」
赤ずきんは焦りながら怒っていました。
「他にはどんなツイートしたんですか?ちょっと見せて下さい!」
赤ずきんは眠り姫からスマホを取り上げて、さらに過去のツイートを見てみました。
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忙しいから会いに来る時はアポ取れって偉ぶってるAZってガキほんとムカつく。
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「人の悪口書いてるじゃないですかぁ!…しかもAZって…これ私のことですよね!?」
A(あか)Z(ずきん)は再び眠り姫に怒りました。
「いや〜他のAZでしょ?大した悪口じゃないし、別にいいんじゃないかしら?」
眠り姫は自分の髪の毛をねじねじしながら、めんどくさそうに言いました。
「ダメですよ!本人にとっては軽くても、見てる側が重くとることだってあるんですから!そしたら炎上しますよ!…まさか、他にも悪口書いたりしてないですよね!?」
「それは大丈夫よ、書いてないわ!赤ずきんにだけよ。」
「やっぱり私の悪口じゃないですか!!」
うるさいわねぇと言わんばかりの表情で眠り姫は赤ずきんを睨みました。
「当たり障りの無いツイートだと全然反応ないのよ!それくらい過激じゃないとあいつら見向きもしなわ!」
赤ずきんがさらに過去のツイートを漁ってみました。すると、伸びてるツイートと伸びてないツイートには明確な反応の差がありました。
「…確かにあまり反応無いやつとかありますね…これとか。」
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私は魔女の呪いによって長い間眠っていた。でも、それを不幸だとは思わない。それを経験したから時間の大切さがわかるし、それに大切な人にも巡り会えたから。だから、不幸だなんてちょっとも思わない。とツイートしたところで今日は寝ることにする。
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「うわぁ…このツイートに反応ないのキツいですね…。真面目なツイートして誰も見てくれないのは…しかも、反応無さ過ぎて自分でいいね押してますし…。」
眠り姫はムスッとしながら赤ずきんからスマホを取り上げました。
「ええ!そうよ!悪かったわね、自分でいいねしてて!恥ずかしいのよ!こんな意識高いツイートにいいねが少ないと!」
眠り姫は赤ずきんにそう言うと、スマホの画面を勢いよくスワイプし始めました。そして何かを見つけたのか、スワイプを止めて赤ずきんに画面を見せました。
「そんなツイートよりこういうのの方がバズるのよぉ!!」
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今日の朝のこと。私は他の家事で忙しかったので、夫に皿洗いをしてほしいと頼んだけど、休日だから休ませてくれと言って、やってくれなかった。すると、5歳の娘が「休日だけど私がやってあげるよ!」と言って皿洗いをしてくれた。私が夫を得意げに見ると、夫は渋々娘を手伝い始めた。
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「ウソついてるじゃないですかぁ!!眠り姫さんに5歳の娘さんなんていないですよねぇ!?」
赤ずきんは怒りながら眠り姫を問い詰めました。
「うるさいわねぇ!いるのよ、妄想の中では!これくらいの嘘、みんなついてるわよ、たぶん!」
眠り姫は、怒る赤ずきんに逆ギレしました。それに対して赤ずきんもさらに怒り、眠り姫に背伸びして顔を近づけながら言いました。
「いいですか!嘘ツイートがもしバレたら、正義を得たツイッタラー達にボコボコに叩かれるんですよ!もっと悪いと特定とかされて、リアル生活で嫌がらせされたりするんですからね!」
赤ずきんに捲し立てられた眠り姫は、「そ、そんなこと言われても仕方ないじゃない!」と言って背を向けてしまいました。
しばらくの間、眠り姫は赤ずきんに背を向けていましたが、やがて振り向いて赤ずきんを指差して言いました。
「分かったわ。じゃあ、赤ずきん!そんなに色々言うのなら、あなたにも協力してもらうわよ!私のフォロワー増やしに!」
「ええっ!私がですか!?で、でも、私には何もできないですよ?ツイッターとか見る専で、全くツイートとかしてないですし!」
動揺する赤ずきんに眠り姫は不敵な笑みを浮かべながら言いました。
「いや、あなたがやるのはツイッターじゃなくてユーチューブの方よ!」
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