まだ見ぬ青春

押田桧凪

第1話

「佐沼さんって、いつも爪がきれいだよね。きちんと手入れされてて。もしかして……」


「うん、ピアノやってるんだ」


 りえのことを、思い出す。鍵盤の上で踊る、白い指。なめらかな表面に残る、あかぎれを隠そうとして絆創膏で覆った肌。

 俺は彼女のことが好きだった。


「ゆかりは何年ピアノしてんの?」


「なに、急に?」

 

 一瞬表情を止め、驚いた顔をつくろうとしたが、結局それは失敗に終わって、彼女はひきつったような笑顔を見せた。


「いや、ただ気になっただけ」


 俺は何事もなかったかのように、飄々と答えてみせる。


「そっちじゃなくて。もう……ばーか」


 赤らめた横顔はきれいだった。

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まだ見ぬ青春 押田桧凪 @proof

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