三位一体

味噌村 幸太郎

第1話 その瞬間、3兄弟の心が一つに


 今から15年ほど前の話です。

 僕がまだ20代前半ぐらい。今、結婚している妻がまだカノジョだったころ。


 後に結婚して家を出るまで、僕はずっと実家暮らしでした。

 ということは、自ずと、『そういう仲良しなこと』に気を使わないといけなかったのです……。


 当時、実家には、まだ家族全員、暮らしておりました。

 親父とお袋、それに6つ年上の兄貴、林太郎りんたろう。3つ上の兄、三太郎さんたろう


 僕以外の二人は、ある程度の収入があり、特に一番年上の林太郎に関しては、就職して数年経っていたので、安定した立場にありました。

 三太郎に関しては、フリーターぽい感じで、不安定でした。

 まあ、当の僕は、病んでいて、無職でしたが。(今も)


 幼い頃から男ばっかしの三兄弟で、ケンカもよくしましたが、仲は良かった気がします。

 ですが、全員大人になり、モテない奴らでしたが、やっとのことで、各々がパートナーと付き合えることになり、少しずつですが、話す機会も少なくなりました。

 特に6つも年上だった林太郎については、幼い頃から、お兄ちゃんというより、『第二のお父さん』みたいな存在だったので、余計に話しづらい感覚がありました。

 仕事も忙しそうでしたし。社会人になって、本人も色々と悩んでいるところもあったのでしょう。


 三兄弟、性格は全然違います。

 女性の好みも。

 一番目の林太郎は、知的な女性が。

 二番目の三太郎は、ちょっとギャル系が。

 三番目の僕は、童顔系が。



 ある日、僕はカノジョと『仲良くしたい』と思い、近所のオンボロで格安のホテルを利用しました。

 終わってから、裏口から出ようと試みます。

 別にやましい気持ちはないのですが、以前、別のホテルで、カノジョのお義母さんの知り合いに見られてしまい、密告された苦い思い出があったからです。

 裏口を二人で抜けると、すぐに駐車場があります。

 そこに見慣れた車が一台。


「あれ、味噌くんのお兄ちゃんの車じゃない?」

「ファッ!?」

 カノジョが指をさした車は、確かにめっちゃダサいオンボロの軽自動車でした。

「ね、三太郎兄さんの車だよね?」

「あいつ、わざわざ同じところ使うなよ」

 そう言いながらも、僕はゲラゲラ笑っていました。

 年が近い三太郎とは、友達感覚の関係でしたので。

 だから、悪ふざけが始まって、僕は持っていたガラケーで、一枚証拠写真をパシャリ!


 ~その後~


 夜になって、三太郎が帰って来たので、僕はさっそく証拠写真を見せつけてやります。

「なぁなぁ、今日さ。あのホテル行ってただろ?」

 動揺を隠せない三太郎。

「なっ!? 幸太郎こうたろう……お前もあの時、いたのか!?」

 ここで、僕はなにか違和感を感じました。

 兄の「お前も」という言葉に。

「なんで、僕があそこにいたの、知ってんの?」

 言葉につまる三太郎。

「いや、そうじゃない……。お前、俺が言ったっていうなよ。実はな…林太郎の兄貴もあのホテルにいたんだよ」

「ファッ!?」

 あり得ないと思いました。

 収入が不安定な三太郎が、あのオンボロホテルを利用するのは仕方ないとして、プライドが高い林太郎がカノジョさんを連れて行くなんて。


「ウソだろ?」

「ホントだっ! 間違いなく、あのジープは林太郎兄貴のだった。あんなオンボロジープ持ってるのは兄貴以外いない。それにナンバーも確認したぞ」

「えぇ……」


 僕は脳内で大パニックを起こしていました。


「ちょ、ちょっと待てよ……じゃあ、僕たち三兄弟、あの時、同じ場所で、同じ時間に、全員が繋がっちゃったてこと!?」

「まあそうだろな……」

「しんどっ!」


 後日、林太郎の兄貴が晩酌している時に、話を振ったら、苦笑いでこう答えてくれました。

「ああ、あの日な。給料前だったからな」

「えぇ……」


 同年、二人の兄は、当時付き合っていたカノジョさん達と、めでたく結婚されました。

 僕もその二年後に結婚しました。



 この日の出来事は、僕たちの遺伝子情報によって仕組まれたことなのかもしれません。


   了


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

三位一体 味噌村 幸太郎 @misomura-koutarou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ