(※復元成功)特A事案「Mr.テディは一体何処へ?」⑦
--どのぐらいで現場に着きましたか?
山井「大体、10分ぐらいだったかと思います。私たちの家から少し離れた民家でした」
陽子「車を出るなり、八神さんの仲間の人が『ここです』って案してくれて」
--その家の様子はいかがでしたか?
陽子「至って普通の……とは言い難い感じでした。なんかこう、嫌な雰囲気が漏れ出してるっていうか……」
山井「それで八神さんが、『我々は中に突入しますが、お二人はどうしますか?』って聞かれて……」
--入られたのですか?
山井「はい。やはり私たちの娘のことですから」
--”八神”は何と?
山井「『では、私が先頭、その後にお二人が続いてください。最後尾に私が付きます』って言って……」
--間に挟まれた、という感じですね。
山井「相手はいつ、どこから襲ってくるかわからないから、ということでした」
--突入の際の様子はどうでしたか?
山井「八神さんが何回かインターホンを押しましたが、反応が無く……それでドアの取手に手をかけるとガチャって音がして……『空いてますね、入りましょう』って」
陽子「今思えば勝手に入ってよかったのかしらと思うんですけど、それどころじゃなかったですしね……」
--中での様子はいかがでしたか?
山井「そこからはもう、あっという間の出来事でした。最初に入ったリビングのような部屋で、男性が1人、女性が1人……それから、加奈と同じ歳くらいの女の子が倒れていて……そこにゆっくり近づいて行った八神さんに突然、襲いかかってきたんです」
--加奈さんの姿をした、”ヤツ”ですね。
山井「はい。大きなソファーが置いてあったんですが、その影に隠れていたようです。八神さんに飛びかかって揉み合いになって……それで、仲間の2人が助けようとしたんですけど、近寄った瞬間、悲鳴を上げてのたうち回って……」
--何が起きたのでしょうか?
陽子「包丁でした」
--包丁、ですか。
山井「右手に細長い包丁を持ってたんです。それで喉元を切られてました。ものすごい速さで……その後でした。ヤツが標的を変えたんです」
--おふたりに気づいた、ということですね。
山井「はい。私たちを見て、またあの嫌な笑顔を浮かべて……私たちの方に向かってきました。ゆっくりと……」
陽子「私たちは、動くことができませんでした。もちろん、声も上げられず……」
--おふたりは、どう対処されたのですか?
山井「対処も何も、ありませんでしたよ。ただ震えながらその場に立ち尽くしていただけです。それで、いよいよ私たちの目の前に立って、ああもうダメだって思った時に、助けられたんです」
--”八神”にですね。
山井「いえ、娘です」
--娘さん、ですか?
山井「はい。ヤツが包丁を振りかぶったまさにその時なんですけど、急に表情変えて動きを止めました。『あ、あ、あ、あ、あ』みたいにうめき声を上げながら……」
陽子「気づいたら、私の持っていたクマのぬいぐるみが、細かく震えていたんです」
--一体、何が起きたのでしょうか?
山井「あとで八神さんに聞いてわかったんですが、クマの元々持っていた能力を娘が使った、ということらしいです」
--能力、ですか。
山井「ほら、さっき言ったでしょ。八神さんが、『ヤツはサイコキネシスの力を持っている』って話をしてたって」
--クマのぬいぐるみに入っている娘さんの意識が、サイコキネシスを使った……ということは、”能力”は肉体そのものに付随するということになるのですか?
山井「そうらしいです。私たちもあとで説明されたんですが、よくわからなくて……」
--その後はどうなったのでしょうか?
山井「私たちが呆気に取られていると、八神さんが『今のうち!! 今のうちに!!』って床に寝転がったまま八神さんが叫んでました。何箇所か体を刺されて、フラフラになっていたらしいです」
陽子「それで、『娘さんとクマの両手を繋がせてください!!』って……最初、それを聞いてもポカンとしてましたけど、『早く!!』って大声で言われてハッとなって。急いで娘のそばまで行き、左右の手でそれぞれクマの手を握るような形にしました」
--体を入れ替える時に、娘さんが行うポーズですね。
陽子「はい。そしたらバチバチッて音がして、固まってた娘の体から力が抜けて、という感じです」
山井「それと同時に、クマのぬいぐるみも床にボトンと落ちました。しばらくして、またクマがブルブル震え始めたんですが、いつの間にか八神さんが起き上がってて……」
--”八神”は何をしたのでしょうか?
山井「何かロープのようなもの……今思うとあれは
--なるほど。ヤツの動きを封じる何かを施した、ということですね。その後は、どうなりましたか?
山井「そのあとは、正直覚えていません。玄関から、八神さんの別の仲間が入ってきて、私たちと娘、八神さんとその仲間を連れ出しました。外に停めてあった車……確かワンボックスカーだったと思います。そこに乗せられました。運転手の人に、今から安全な場所に向かいます、もう大丈夫ですと言われて、ホッとして……親子3人、いつの間にか眠ってました」
--何処に向かったのでしょうか?
山井「詳しくはわかりません。気づいたら、白い病院のような建物の前に到着していました。周りに建物はなかったので、どこか山の中だったのかな、と」
--そこでは何を?
山井「まず、怪我の治療と着替え、その後はシャワーを浴びて、3人同じ部屋に案内されました。ホテルのスイートルームみたいなところでしたね。正直、豪華でびっくりしました。そこで、だいたい1週間くらい過ごしました」
--1週間ですか。
山井「はい。1週間後に八神さんが部屋に訪ねてきたんです。それで、『大体の処理が完了しました』、と。事件に関するあれこれは、もうあなたたち家族には影響を及ぼしませんという話でした。そして、『あなたたちの新しい家も見つけました。新しいと土地で、また普通の生活が送れます』という話をされて……」
陽子「主人も娘も、そして私も呆然としていたのだと思います。そんな私たちの姿を見て『いろいろ気になることもあるでしょう。戸惑うこともあるでしょう。ですが、怪異に巻き込まれた皆様には、環境をガラッと変えることを私はお薦めしています』という話をしてきて……」
--それで、皆さんはこの家に?
山井「はい。彼の提案を受け入れて、この家に引っ越してきました。確かに、あのまま元の家に戻って暮らせと言われても、嫌なことしか思い出さないような気もして……娘は学校の友達と別れるのを嫌がっていましたが、今は便利な時代ですね。SNSとかで、今でもちゃんと連絡できてるみたいですよ」
--娘さんは今どちらに?
山井「ああ、部活に行ってます。中学に入ってから、テニス部に入ったんです。今は夏休みですからね。朝から夕方まで練習みたいです」
--娘さんは、当時のことは覚えてらっしゃるのですか?
山井「今は全く覚えていないみたいです。これも、八神さんのおかげですかね」
--八神が何を?
山井「加奈に、記憶に関する処置を施しましょうという提案を受けました。事件に関わることのみの記憶を消す治療があると。最初は戸惑ったんですが、やはり自分の体が人殺しに使われた記憶なんて、覚えててもおぞましいだけですからね。是非やってほしいとお願いしました」
--今でも能力は使えるのでしょうか?
山井「それが……無くなったんです」
--使えなくなったということでしょうか?
山井「はい。パッタリと」
--それに気づいたのはいつでしょうか?
山井「記憶処理の治療が行われた後です。この家に引っ越してきて1週間ぐらいのことでした。娘がね、なんか元気ないんですよ。治療の影響かなと思ってたんですが、ある日『ねえ、パパ』って言われて、急に両手を握られたんです」
--体を入れ替えるポーズですよね。
山井「はい。でもね、何も起こらなかったんですよ。体はそのまま。それで、『もう出来なくなっちゃったみたい』って」
--自分自身で能力が無くなったことに気づいていたと?
山井「そうだと思います」
--なるほど……いろいろお話を聴かせていただきありがとうございました。
(音声記録、終了)
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