第6話 フェイトとゾーイ。
昼休みになった。初登校のマデリンは、お昼はどうするのか。学級委員として、声をかけた。応答がない。車椅子のなかをのぞき込むと。
――まぁ、寝てますよね。鼻提灯を令嬢が出しているなんて、初めてみましたわ。飾らない、かわいらしい方ですね。
「行きましょうか。ゾーイさん」
貴族学校ということもあって、専門のシェフを雇っている。学食はとても人気だ。 もっと財があり、こだわりがある方は自分でシェフを雇って作らせている。
いつもの窓際の席につく。イザベラは日光が苦手なので、ここにいれば突っかかってこない。
「今日は、、その、、、量が多いですね」
「そうです。
たしかにいつもの1.2倍ぐらいの大盛りです。
「動ける令嬢! なんか、、、すごい。こう言っては、、失礼だと思うんですが、いまのフェイトさん、すごく、、、好き、、、です」
ゾーイは顔を赤らめる。わたくしまで照れます。
「まぁ!」
思わずお肉を落としてしまった。イタムに食べさせる為にわざとやったが。服のなかを器用に移動、足下から出て、肉を平らげる。ゆっくり食べるのよ。
「い、いやいやいや! へ、、、変な意味じゃないですよ……。前のフェイトさんもすごく真面目で、堂々としていて、素敵でした。その、、色々、、、あった後のフェイトさんはすごく気さくで冗談も面白くて、怖いイザベラさんともやりあって。かっ、、、かっこ良かった! スカっと、、、したんです」
ゾーイは婚約破棄という言葉を使いませんね。優しく、気遣いもできるわたくしの唯一の友達です。
「そうですね。イザベラがなにを言おうと無視してましたからね。ゾーイさんをスカッとさせることができて光栄至極ですわ」
ゾーイははにかむ。
「イザベラさんが驚いた顔なんて、、、初めて見ました。最高、、でした」
今日のゾーイは良くしゃべる。いつもはそんなに会話しない。それでも、ふたりに気まずい空気はない。
ゾーイとの出会いは、ウィンストン学園の1年生の時。
ゾーイとは隣の席だった。物静かで、大きな音が苦手だった。とくにイザベラが苦手みたいで、いつもわたくしに近づいてくるイザベラに怯えていた。たしかに、あれは怖い。顔の迫力が違う。
わたくしは魔女の末裔なのに、魔法が使えないことをイザベラに馬鹿にされ、絡まれていた。
無視していたが、それが気に入らなかったようで、毎日理由をつけて絡んでくる。最初こそクラスメイトも遠巻きに動向を見守っていたが、むしろ仲がよいのでは。私たちにはわからない高度な愛情表現では? と誤解するほどに、毎日飽きもせず絡んできた。
精神が安定しているときはただ、無視をしていればよかった。しかし、王太子妃としてのマナー、社交術を王城で学んでいて、うまくいかないと、魔法が使えない無能という言葉が、自分が無能という言葉に変換される。
わたくしは一度、イザベラの前で泣きそうになった。
「まさか。いつも無視し続けているフェイトが泣くのか。いまはどの辺が心に響いたのか教えてくれないか。なぁ、なぁ、なぁー」
イザベラが調子づいた。わたくしは泣いているのを見られたくなくて、机に顔を伏せた。
――そこに。いつもおどおどとして、頼りない印象しかなかったゾーイが震えながら、やってきた。
わたくしは腕のすきまからその様子を見る。あきらかに顔が青ざめているゾーイ。
「イザベラさん。失礼、、、です! アシュフォード、、さんに。ああ、謝ってください。アシュフォードさんは、いつも、私たちの何倍も、、努力して辛い思いをして、、立派な王太子妃になるため、、頑張っているんです。あ、、謝、れ! 謝れ!」
臆病な印象しかなかったゾーイが見せた勇気に気圧され、イザベラは「す、すまん……いい過ぎた」と言って、ゾーイに謝った。
イザベラが去ると、ゾーイは腰を抜かす。
わたくしはあわてて、からだを支える。
「こ、、怖かった、、です。流石、黒闇の魔女のむす、め」
「ありがとうございます。ゾーイさん。わたくしと友達になってくれませんか」
わたくしは涙をふいて、ゾーイと握手したのでした。その時の彼女の笑顔が忘れられません。
学校でいちばんしなくてはいけないこと。
わたくし、ゾーイの悲しみを減らさなくては。
ゾーイはわたくしが死んだら、悲しむでしょう。
そんな姿、わたくしは見られないとしても、させたくなんかございません。
「ゾーイさん。お話があります」
呼吸を整え、覚悟を決める。
「なんでしょうか」
キョトンとした顔。
小動物のようなかわいらしさ。
臆病な中にも、人の為になら出せる勇気がある素晴らしい方。蛇女のわたくしにはもったいない、たったひとりの友達。
「な、なんでもありませんわ。そろそろ教室に戻りましょうか」
「はい。フェイトさん、このままでいてください。私、、ワクワクします。楽しい学校生活になりそう、、です」
「そうですわね。せっかくの学校なのですから、楽しくいきませんと」
笑ってごまかす。
あのときのゾーイの勇気を思い出す。それは人としてのきらめきを見た瞬間だった。
ありがとう、ゾーイ。貴方が勇気を出してくれたから、わたくしも明日、必ず、貴方の悲しみを減らす。勇気を出すわ。
例え、嫌われなかったとしても、どんな手を使ってでも、悲しみを減らしてみせます。
ゾーイは泣いた顔より、笑顔の方が似合うのだから。
なにがあってもわたくしはゾーイと、いつまでも友達ですわ。
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