二話

 撮影当日。私はウェディングドレスを着て、愛する彼女の隣に並ぶ。愛を誓い合うためではない。同性愛をネタとして消費したい、下衆なファンのため。


「まみみー! クールキャラとは言え、流石にちょっと顔怖いよ!」


「すみません」


 私は元々、笑顔を作るのが苦手だ。それでもアイドルになりたかった。歌って踊って、キラキラしたかった。そのために笑顔の練習をしたのに、笑わなくて良いと言われた時は地味に傷ついた。けど、良かったと今は思う。こういう時無理に笑わなくて済むから。


「はい。次は二人、向き合って」


「はい」


 向き合って、菜々子を見上げる。彼女は背が高い。私が155しかないのに対して、菜々子は170もある。しっかりしていそうで、実はちょっと抜けている。そのギャップがファンからウケるらしい。本当は物凄く計算高くてしっかりしている人だけど。天然キャラも押し付けがましくなく、わざとらしくなく、自然だ。


「二人とも、良い表情だねぇ。みたいだよ」


「あははっ。ありがとうございまーす」


 カメラマンに言われた言葉に笑顔でお礼を言う菜々子。どうして笑えるのだろう。


「まみみ。私を見て。私だけを見ていて。大丈夫。嘘になんてさせないよ」


「……うん。ななを信じる」


「うん」


 手を繋いで、頭を寄せ合って、愛し合う二人を演じる。カメラマンやプロデューサーは本物みたいだと何度も絶賛した。みたいじゃない。本物なんだ。そう言える日は、いつ来るのだろうか。心に燻る不安を、彼女の優しい笑顔が打ち払う。今はただ、彼女を信じよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る