第20話 作戦会議 その2

「……というわけなんだが」


 五時間目は始まっている。


 俺は再び授業放棄をして、他に誰もいないカフェテリアで碧との作戦会議を始めていた。


「でも卯月君はそんな恵梨香さんやエミリさんを選ばずに私を選ぶのよ。極悪非道の人非人ね」


 顔色を全く変えずに、目の前に座っている碧が言い放ってくる。


「俺、極悪人かよっ!」


「極悪人ね」


 ふふっと口端を歪めて悪者っぽく笑って見せる碧。


 この不思議な娘とグルになってから、何故かこの娘が魅力的に見えてしまってきていることに驚きを隠せないまま、俺たちは悪だくみを進める。


「二人とも本気なのね。わかってはいたことだけど」


「こうやって隠れて話しているのも二人に申し訳ないな。だが、能力を使って俺を脅してでもというのはやはり納得いかなかったんだ」


「卯月君が納得いかないと同じように、私にも私の考えがあるからこうして私は卯月君と行動を共にしているのよ」


「最初から素直に告白されたら、俺には勿体無いほどの女の子たちだ。俺も真剣に考えてオッケーしたかもしれないのにもったいない」


「そうね。卯月君はどちらかの子を選んだでしょうね」


「だな。嬉しいのか悲しいのかよくわからん状況だが」


「だから二人には申し訳ないけれど、光一郎が本気で嫌われる様にもっと揺らしてみましょうか?」


「俺が二人にもっと素っ気なく対応するのか?」


「もうちょっと乱暴に、かしら」


 碧はそこまで言うと、目の前にあるアイスティーのグラスを口に運んで、一口含んだ。


 決してお嬢様がするようなたおやかな仕草ではなかったのだが、無駄がなくかつ品のある動作で、乱雑な男とは違った確かな女の子を感じて見つめてしまう。


 水瀬碧。


 面立ちは、意志を感じさせる瞳が特に印象的だと思う。


 そのクールな挙動に目が行きがちだが、胸もきちんと形良く、腰回りから脚までのラインも綺麗な女の子。


 出ている部分と引っ込んでいる部分のバランスがとてもよく、はっきり言わせてもらうと……美術のヌードデッサンのモデルなんか、とてもよく似あうと思う。


 いや、エロい感想なんだが、俺も男だから……正直に言わせてもらうと、そういうことになる。


「なに……?」


 グラスを置いた碧が、よくよく目線を注いていた俺に聞いてきた。


「いや……」


 ちょっと気恥ずかしくなって、何と答えてよいのかわからず誤魔化す。


「何か作戦があるならもったいぶらないで話してほしいけど」


 碧が落ち着いた表情のまま、少し唇を緩めて促してくれた。


「ええと……」


 俺は正直に言うのも嘘を言うのもためらいがあって、ごにょごにょと口ごもる。


「はっきり言って欲しいわ。何か問題があるのなら、事前に打ち合わせしておいた方がいいと思うから」


 碧の表情が少し険しくなって、俺もそのわずかなトゲにチクリと刺された。


「最近までクールっぽいというか、感情をあまり表に出さない印象だったけど、実際はそうでもなくてちゃんと喜怒哀楽のある人間っぽい娘なんだって思っていまみてた」


 碧が押し黙った。


 それから羞恥とか困惑とか気恥ずかしさの混じった複雑な表情で頬を薄っすらと染める。


「はっきり言って欲しいといわれたから、言った。俺たちはもう『裏のパートナー』だった思っている」


 そう言うと、碧は「そうね」と一言だけで答えてくれた。


 なんというか、嬉しいという顔をしていたのは気のせいじゃないと俺は思った。

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