第7話 俺はもうどうすればよいのかわからんよ
エミリから逃げるように、生徒会室を後にして教室に向かう。
どうしよう……と頭を抱えて呻きながら、とぼとぼと進む。
やがて、俺と恵梨香とエミリのクラス、二年二組にたどり着いた。
ホームルーム前の時間帯で、生徒たちがわいわいと賑わしい教室に入ると、待ってましたと言わんばかりの恵梨香の声が部屋に響き渡った。
「みなさんにお伝えしておきたいことがあります」
この学園の中心人物。物理的にも教室の中心にいる恵梨香に、さあっと教室中の男女の目が注がれる。
恵梨香は皆の視線に、満足気にうんうんと頷く。さらに入り口に立ち止まっていた俺のところにまで歩いてきて、二人並ぶような位置から言い放った。
「私、綾瀬恵梨香は、ここにいる卯月光一郎さんとお付き合いすることになりました。ふつつかな対応もあるかと思いますが、よろしくお願いいたします」
なんですとーーーーーー!!
早晩、俺が恵梨香と恋人関係になったという事は、バレて学園中に広まるとは思っていたのだが、いきなり恵梨香が宣言するとは思ってなかった。
猫を被っている優等生生徒会長。だがその本来の姿は、直情的で感情に素直な喜怒哀楽のはっきりしている女の子。
嬉々として恵梨香が恋人表明を行うことは、ある意味自然な事だとこの状況になって思われた。
瞬間的に、クラスが静まる。
恵梨香は、俺の脇で教室の面々に向かって深々とお辞儀をし、同時に怒声と嬌声が沸き起こった。
「なになに。綾瀬さん。卯月君とついにですか?」
「アヤシイと噂にはなっていたけど、生徒会長さんも人の子だったというわけね」
「なんでなんでなんでーーーーーー!!」
女子生徒たちがわらわらと寄ってきて、恵梨香がそれに対して菩薩の微笑みで応対している。
対して俺に向けては、男子生徒たちの不審と敵意の視線が注がれてくる。
三々五々、ひそひそと何か情報交換的なものをしつつの、「なんであんな奴が……」という露骨な目線がやけに痛い。
俺、どうなっちゃうの? という困惑のまま、状況だけが時間と共に流れてゆく。
「会長。副会長とは、その、前からそういう関係だったんですか? その……男女関係的な」
「恵梨香さん。その、卯月さんとは、その、キ……彼氏彼女的な事とか、されましたか?」
「どうしてどうしてどうしてーーーーーー!!」
恵梨香の周りに集まって口々に質問を投げかける女子生徒たち。
対して俺に向けての質問が全くないのが、なんとも居心地が悪い。
俺、逃げ出していいか? と自問しつつ隣で嬉しそうに応対している恵梨香を眺めていると、
「なになに。恵梨香ちゃんと光一郎君、どうかしちゃったの?」
生徒会書記のクラスメート、先ほど恵梨香の後で重婚契約を結んでしまったエミリちゃんが教室に入ってきた。
やばい!!
瞬間的に、その文字だけが脳内を支配する。
恵梨香の脅しを絡めた告白にはOKせざるを得なかったのだが、その後でエミリちゃんにまで関係を迫られたのは常軌を逸していた。
こんなことになるのなら、最初から覚悟を決めて恵梨香を断っておくべきだったと思い返すも後の祭り。
ウキウキ恵梨香と、ニコニコエミリに対して、いまさら詫びを入れることが許されるはずもない。
俺、マジで二人に〇されかねない。
エミリの登場で、心臓がバクバクと鳴り始めて止まらない。
脂汗が止まらない。
「聞いて聞いて、エミリちゃん。恵梨香さんと卯月さんがついに恋人同士になっちゃったの! 恵梨香さんが告白して、卯月さんがOKしたんだって!」
女子の語りかけに、金髪の天然小悪魔が、きょとんとした目をする。
「エミリちゃん、同じ生徒会メンバーだから、前から部屋でもそんな雰囲気あったんじゃない?」
目をぱちくりさせて状況がわからないという様子。
頼むから、わからないままでいてくれ(無理なんだけど)、と神頼みするが、恵梨香がそれを粉砕した。
「あらエミリ。私、光一郎と付き合うことになったの。エミリにも祝福してもらえると嬉しいんだけど」
「………………ん?」
小首を傾げて、うーんと何か考えているいう感じのエミリちゃん。そののち、わかったという顔でふふんとニンマリとした悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「そうなんだ、恵梨香ちゃん。私も光一郎君の彼女になったの。祝福してくれると嬉しいな」
最悪の返答をエミリがしてきた。今度は恵梨香がきょとんとする番だった。
小悪魔の笑みを浮かべているエミリと、え? という疑問の表情の恵梨香。
そのまま無言の時間が過ぎてゆき……
二人して同時に俺に顔を向けてきた。
「「光一郎」君」
二人の声が同時にハモる。
恵梨香の表情は凍っているし、エミリちゃんはニコニコしてはいるがその瞳は笑っていない。
「光一郎。エミリと付き合うって言ったの!?」
「はい……」
なんとも答えようがないのだが、恵梨香に嘘をつく勇気はない。
「光一郎君。恵梨香ちゃんの彼氏になるって言っちゃったの?」
「いいました……」
エミリちゃんを誤魔化すのも躊躇われる。
終わった……
俺の全てが終わってしまった……
教室中が静まって、俺の出方をうかがっている状況で、俺は床の上に正座した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます