美少女たちが『能力』で俺をモノにしようと狙い合っていて、もうどうにも身動きがとれない!

月白由紀人

第1話 プロローグ

「ちゃんと来たわね」


 放課後の生徒会室で、会長の綾瀬恵梨香(あやせえりか)が満足そうな笑みを浮かべた。


 長いサラサラロングの黒髪に、上品さと優美さを感じさせるとても整った作りの面立ち。


 青のブレザーに同じく青色のミニスカートという制服姿も、そのバランスの良い体躯の魅力を引き出している。


「呼び出されたからな。なんか用事があるんだろ? 事務にも慣れたから何でも言ってくれていいぞ」


 対する俺は、平凡な容姿に平凡な成績。生徒会で副会長をやらされているという事を除けば、彼女いない歴=年齢のごく平均的な一般男子生徒だ。


 もちろん、普通に考えれば目の前にいる恵梨香は超高嶺の花。


 高嶺の花なのだが、俺は副会長に指名されて事務を一年ばかり手伝っている。


 なぜかって?


 それは恵梨香が俺の幼稚園以来の幼馴染だからだ。


「まあ来なくても二人だけの時間は作るんだけど」


 優等生生徒会長に似合わないフランクな口調。


 恵梨香は、生徒会メンバーだけがいる場所では、被っているネコをわりとあっさりかなぐり捨てる。


 ざっくばらんで喜怒哀楽のはっきりしている、ある意味自分の感情にストレートな女の子。


 それが俺、卯月光一郎(うづきこういちろう)の幼馴染、綾瀬恵梨香なのだ。


 恵梨香が俺を呼びつけるのは、昔からの様式美となっている。


 やれ新しいゲームを買ったから一緒にやろうとか。


 町内会の盆踊りに一緒に行こうとか。


 新しいカフェが駅前に出来たから、パフェの試食に行こうとか。


 大したことのない要件がほとんどなのだが、すっぽかすと機嫌の悪い日が一週間続くので袖にしたことは今までに一度もない。


 だから俺は今朝の突然の呼び出しにも応じたのだ。


「いきなりだけど……」


 恵梨香の声が俺の回想を中断させる。


「私と彼氏彼女の関係にならない? いまさらそれ言うのって感じだけど」


「マジ、いきなりだな。腐れ縁の印象が強くてすぐには考えづらいな」


 恵梨香がバツが悪そうに目線をそらす。


「ずっと言いそびれてた。っていうか、言い出せないまま時間だけが過ぎてったってのが本当のところ。私、光一郎とずっと恋人同士になりたかったの。だから副会長に指名して距離を縮めようとしてたの。男女関係的な」


「まあ、俺とお前。馴染みがありすぎて、恋人になるにはドキドキ感というか、初々しさが全くないからな。倦怠期の夫婦みたいな」


「そう! まさにそれ! よくわかってるじゃないの、光一郎! やっぱりパートナーにしたいって思い直している所、今!」


 俺と意気投合して表情をにこやかす恵梨香。


 ニンマリとした笑みを浮かべて、ふふんと鳴らした。


「そしてそれをかなえる能力を手に入れたの」


「能力……?」


「そう。彼氏彼女の関係から将来に至るまで。運命のパートナーになる力。『夢魔の能力』よ。なんのことかわからないだろうけど」


 片腕を腰に当てて、自身に満ち溢れている表情を浮かべている。


 いや……


 俺も『普通の状況』だったら恵梨香の意味不明なセリフに、「なに言ってんだこいつ?」的な反応を示していたところだ。


 しかし恵梨香の言っている言葉の『意味』がはっきりわかってしまった所が、昨日とは状況が違っている。


「光一郎がそれほど彼女欲しくないことは知っているわ。でもどう、わたしは?」


 恵梨香が両腕を広げて、学園三大美少女であるところの自分を披露する。


「『能力』を使ってみたいところだけれど、でもそれは最終手段というところで。将来的な事は目標として置いておいて、まずは恋人関係から始めましょう」


 恵梨香はもはや俺と彼氏彼女の関係になれないという状況は念頭にない様子だ。


「はっちゃけると、小さいころから一緒に何げなく下校していても、いつも光一郎のこと考えてた。年頃になって成長してくると、起きている時も光一郎の顔が浮かんで、ベッドの中でも悶える時間が増えて。流石に私ももう限界。そんなときに私の元へ『アレ』がやってきたの。私も、光一郎との関係が進まないのはもう限界っぽくて、我慢しなくていいって思ってしまったわ」


 嬉しそうな顔。

 ほころぶ口元。


 いやまあ、確かに学園三大美少女であるところの恵梨香だ。猫被っていて、本質は柔らかな優等生どころか感情に物凄く率直な女の子なのだが、それは元々知っている。


 悪い娘じゃない。

 全然ない。


 むしろ良い娘で、直情をぶつけてくることも多々あるが、それも俺の事を本心から信用してくれているからなのを俺は知っている。


 でもなぁ……


 俺は、恵梨香とのアットホームな関係が心地よくてそれを変えたいとは思っていないのだ。


 かてて加えて、『能力』を盾にして俺との関係を迫るというのがちょっと……いやかなりの不満点だった。


 どうする、この状況。


 断ったら、恵梨香は『能力』を使うのか?

 なら俺はなんと返答すればいい?




 これが俺たちの『恋愛ゲーム』の始まりだった。


 この『恋愛ゲーム』はこうなってああなって、俺が予想もしていなかったエンディングを迎えるのだが……


 始まりは一昨日に遡る。

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