期待

 「自然と自由の村!

      ロナイ村へようこそ!!」


 人の声を初めて聞いた。

 俺たち村人は勇者に話しかけられないと喋ることはできないはず。と、言うことは遂に勇者がこの村に来た!?


 今すぐ勇者の顔を拝みたいが、俺はランダムで噴水の周りを歩いてしまう。ちょうど入り口とは逆方向を向いていた。


 そもそもこの村はロナイと言うのか、村人なのに初めて知ったぞ。

 (てか何が「自然と自由の村」だ!? 俺の目の前にあるのは噴水だぞ?? 自然と相対する人工物じゃねぇか!! 自由だぁ? こんな俺たち村人のどこに自由があるんだよ!? お前は村の入り口に立ってるだけの人生じゃねぇか!?)


 初めて人の声を聞き、勇者が村へ来たことへの喜び以上にこれまで溜まっていたストレスが爆発した。


 しかし、いつまでも怒りで我を失っていても仕方がない。勇者が来たんだ。俺のセリフを言う時が来る!


 期待と不安を胸にランダムで動く脚は入り口の方へ向いた。

 

 勇者「あいうえ」は名前こそふざけているが好青年で正義を体現したかのような感じだった。

 頭の中で何度もシミュレーションした言葉を思い出しいまかいまかと、話しかけられるのを待っていた。


 


 だが、勇者はそのまま村の宿屋へ行ってしまうのだった……

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村人Fの心境 奏〜カナエ〜 @mukiziro

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