第20話 うまくいきました

 さて、上手くいきました。

 崖上にいる私から見えるのは、五体のビッグブロントが動かなくなっている姿です。ニコに協力してもらって、ひたすら巨大な岩を集め続けていた成果が出てくれました。

 計画通り、ドマをはじめとしたリザードマンたちで崖下まで誘導してもらい、そのまま私が岩を落としました。物凄くざっくりとした計画ではありましたが、上手くいってくれて良かったですね。

 これを、無限収納インフィニティストレージメテオと名付けましょう。


「ではニコ、崖の下に降りましょうか」


「あいよ。背中に乗んな」


「はい」


 近くで待機してくれていた、ニコの背に乗ります。

 あとは私がビッグブロントに触れて、そのお肉を全部収納するだけです。

 ちなみに私、出すのはちょっと離れた位置に出せるんですけど、収納するには触れないといけないんですよね。そのおかげで、僅かな時間しかなかった伯爵家での収納は大変でした。お父様の蔵書とか、本棚ごと収納しましたからね。

 離れた位置のものも収納できると、とても助かるんですけど。


「いやぁ、しかし楽しみだねぇ」


「何がですか?」


「そりゃ、ビッグブロントの肉に決まってんだろ。ありゃ本当に絶品だからね。あんたもちょっとは食べてみるといいさ」


「そうですね」


 ニコがじゅるり、と涎を垂らしています。

 以前、一番美味しい肉だとも言っていましたし、そんなにも美味しいのでしょうか。ダックスたちがレーベの実を食べていたことを考えると、味覚的にはそれほど違いないでしょうし、私も少し食べてみることにしましょう。

 でも私、あんまりお肉は好きじゃないんですよね。果実とかお野菜の方が好きだったりするんです。


「さぁ、急ぐよ」


 蹄を鳴らして、ちょっと高い位置からニコが飛び降ります。

 いつもながら、心臓に悪い運転です。毎回思うんですけど、背中に私が乗ってること忘れてません?












「ご苦労様でした、ドマ」


「よォ、嬢ちゃん。やっと来たかァ」


 崖下までようやく辿り着きました。

 ニコに「ちょっと速度を落としてください」と何度も言って、どうにか安全に来ることができました。私の手、ぷるぷるしてます。

 ちなみにそんなニコは、「あんまり鬣を引っ張るんじゃないよ」と言ってきました。でも私、他に掴むところないんですよ。


「しかし、こうして間近で見ると凄まじい大きさですねぇ」


「ンだなァ。一匹でも、全部食う前に腐っちまうぜェ」


「まぁ、私が収納すれば腐りませんから」


 ニコの背から飛び降りて、ビッグブロントに触れます。


《発動――無限収納インフィニティストレージ


 手に力を込めると共に、目の前のビッグブロントがひゅんっ、と消え去ります。

 同時に、私の中でどすんっ、と何かが入り込んでくる感覚です。一個体でこれだけ大きなものを収納するのは初めてでしたが、問題ないですね。さすが私、収納領域は無限です。

 あと、ちゃんと絶命しているようで助かりました。《無限収納インフィニティストレージ》、生きているものは収納できないんですよね。


「アンタ、すげェなァ……」


「ひとまず、拠点の方に持ち帰ります。今のところ一個体で登録されていますから、解体して小分けにしてから収納しないといけません」


「よく分かんねェが、アンタについてきゃァいいんだなァ」


「そういうことです。今夜は宴といきましょう」


「うひゃひゃ! 聞いたかてめェら! 今夜は宴だァ!」


 グォォォッ、とリザードマンたちがドマの言葉に喜んでくれています。

 ふふふ、と笑いながら次のビッグブロントへ。

 一体一体が大きいですから、向かうのも一苦労ですね。

 まぁ、宴の前にしっかり働いてもらうことにしましょう。ちゃんと武器は渡しますから、彼らには解体を任せることにします。まぁ、自分たちが食べる肉なんですから、それくらいはやってもらわないと。


「ふぅ……」


 二体目収納、と。

 そのまま三体目――この中でも、最大の大きさを持つビッグブロントに近付きます。

 ニコの話によれば、これがオスということですね。牛とかだと、肉が美味しいのは雌牛だと聞きますけど、ビッグブロントはどうなんでしょうか。

 三体目に触れて、能力を発動――。


「……あれ?」


 収納を発動したのですが、目の前から消えません。

 どうやら、まだ生きているみたいですね。ぴくぴくと動いているのが分かります。体中に、私の降らせた大岩が当たっているから、血塗れなんですけど。

 下手に苦しませるつもりはなかったのですが、体が大きい分だけ生命力も強いってことですかね。


「まだ生きてるってことかい?」


「そうですね。死なないと収納できません」


「まぁ、もう虫の息だろうよ。先に他のを収納すりゃいいんじゃないかい?」


「そうします」


 とりあえず後回しにして、他の死骸を回収することにしましょう。

 その間に、事切れるかもしれませんし。

 ちょっと足が疲れたので、ニコの背に乗って他の死骸へと向かいます。メスはどうやら全員、ちゃんと仕留めることができたようです。収納できました。

 さて、あとはこのオスのビッグブロントを収納すれば終わりなのですが――。


「■■■■■■――――!!!」


 その、次の瞬間。

 私の耳に、劈くようなそんな絶叫が聞こえました。


「嬢ちゃんっ!」


「きゃあっ!」


 ニコが激しく、私へとぶつかってきました。

 ちゃんと体を捻って、角が私に当たらないように。その衝撃で私は吹き飛ばされて、近くの木に当たりました。物凄く痛いです。

 ですが、そんな痛みも一瞬忘れるくらい。


 激しい閃光が――私の前を、過ぎ去りました。


「えっ……」


 絶叫と共に放たれた、熱線。

 それが木々を焼き尽くし、大地に漆黒の痕を残しています。ニコが私を突き飛ばしていなければ、とても無事ではすまなかったでしょう。

 恐る恐る、顔を上げます。

 その熱線を放ったのは――。


「……」


 ビッグブロントの上に佇む、漆黒の影。

 巨大な翼を広げ、鋭い眼差しで王者のように睥睨する、その姿。

 陽光に輝く鱗に身を纏い、鋭い爪でビッグブロントの体を刺し、口元には牙を覗かせた、その姿は――。


「ドラゴン……」


「■■■■■■――――!!!」


 まるで、そのビッグブロントを自分の獲物だとでも告げるかのように。

 漆黒のドラゴンは、再び雄叫びを上げました。

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