冤罪で島流しにされましたので、私はここで魔物王国をつくります~スキル《無限収納》で送るゼロサバイバル無人島生活~
筧千里
プロローグ
目の前に広がる、透き通った海。
強い日差しの下、青く輝く大海原には島の一つも確認することができません。むしろ、遥か遠くに水平線が広がっているほどです。
足元は、さらさらとした白い砂浜。転がっているのは貝殻くらいのもので、石などは見当たりません。透き通った海の様子から見ても、大貴族のプライベートビーチだと言われても何も違和感もないでしょう。
ただ、問題は。
「……ここは、どこでしょう?」
私が今立っているこの砂浜――ここが、一体どこなのかさっぱり分からないということです。
私――ソフィア・ブレンシアは、ソレイル王国のルークス・エーベルハルト第一王子と婚約関係にありました。
正直、武門の名家ではあるものの、ブレンシア伯爵家はそれほど家格の高い家柄というわけではありません。伯爵家にも上の方と下の方では、遥かに家格が違うのです。そして、ブレンシア家はやや下の方だと言っていいでしょう。
そんな我が家に訪れた、私とルークス第一王子の縁談。
正直、何が起こったのか分かりませんでした。ただ、とにかく縁談が決まったことを父上から告げられ、そのまま私は王宮に向かい、初めてルークス王子と顔合わせを行いました。
そして一応ながらルークス王子の婚約者になってしまったため、王都の王立高等学院に入学することになってしまったのです。最低でも侯爵家の、それも上の方の人物しか入学することを許されない王立高等学院にです。もう一度言いますが、伯爵家でも下の方の家柄である私が、です。
そりゃ、胃が痛くなるような出来事は何度もありました。
高位貴族のご令嬢たちに囲まれる中で、たった一人の伯爵家です。そりゃ、虐めが起こるのも当然の帰結ですよね。
加えて、顔立ちも麗しく背も高く、頭脳明晰で運動神経抜群という天から二個も三個も才能をいただいて生まれてきたようなルークス王子の婚約者ですよ。たかが伯爵家の娘が。見た目も凡庸で頭の出来もよろしくない、この私が婚約者なんですよ。いい目で見てくれる人なんて、誰一人いませんでしたね。
まぁ、あの日々のおかげで、メンタルはかなり鍛えられましたが。
多少のことでは、動揺しなくなりました。
まぁそれでも、どうにか学院は卒業しなければならないと、そう考えていました。
将来的には王妃になるわけですから、ちゃんと勉強しなければならないと、責任は一応背負っていたんですよ、これでも。
ただ。
ある春の日。
国王陛下とルークス第一王子、それに私の父上が、同時に王都にいない日が続きまして。
「お前が、ソフィア・ブレンシアか」
学院の廊下でそう私へと詰め寄ってきたのは、どことなくルークス王子と似た顔立ちをしていた男性でした。
若干ながら、ルークス王子よりも目つきが鋭いように見えるのは、不機嫌を隠そうともしていないからでしょうか。何故かその後ろには、数名のご令嬢も伴っています。
はて。
私は見たことのない人物なのですが――。
「はい。私がソフィア・ブレンシアです」
「兄上の婚約者が、こんな家柄の低い凡庸な娘だとはな。父上は何を血迷ったのだか……。お前、己の立場を弁えろ。お前程度の女が、兄上の婚約者として相応しいと思ったか」
「……?」
兄上の婚約者。
そのワードで、ようやく分かりました。
今までお顔を拝見したことがなかったのですが、ルークス王子の弟君であるレパード・エーベルハルト第二王子ですね。今年の春に入学すると、ルークス王子から聞いてはいました。
どことなくルークス王子と似ているように思えたのは、やはり兄弟だからということでしょうか。
しかし、開口一番でそれほど罵られるような真似はしていないつもりなのですが。
「何か御用でしょうか?」
「己の立場を弁えろと言ったはずだ。お前は、兄上の婚約者に相応しくない」
「そう言われましても」
私に文句を言われても、困るというのが本音です。
というか正直、私にそんな縁談が来たこと自体、不思議なんですから。本来、第一王子の正妃といえば公爵家のご令嬢か、他国の姫君というのが定番ですし。
ただ、私のそんな言葉に対して、レパード王子はこれ見よがしに眉を寄せました。
「なんだ貴様、俺の言葉が不服だと言うか」
「……国王陛下より、私はルークス王子の婚約者として認められています。私がルークス王子の婚約者として認められないと仰るのでしたら、まず私より国王陛下に奏上なさってはいかがでしょうか」
「貴様程度の女が、俺に命令するつもりかっ!」
何故か、レパード王子が激昂されました。命令なんてしていません。私、正論しか言っていないんですけど。
そもそも、私の方から婚約を断るとかできませんし。国王陛下から婚約するように言われて、断ることのできる伯爵家なんていませんよ。国王陛下からの要請の時点で、下級貴族からすれば決定事項なんですから。
ですから、レパード王子が私を認めないと言うなら、まず国王陛下に話を通してもらわないと困ります。私何もできませんし。
「まぁ、いい。おいお前、ちょっとこっちに来い」
「はい、レパード様」
レパード王子は、引き連れてきたご令嬢たちのうち、一人を近くに呼びました。
顔は見たことがあります。なんとか侯爵家の誰かさんです。全く名前は覚えていません。だって、そもそも私と交流とかありませんし。
ですが、そんなご令嬢がレパード王子の前に立った、次の瞬間。
「ふんっ!」
「きゃあっ!」
思い切り、その頬を叩きました。
その行動の、意味がさっぱり分かりません。だって、そのひと仲間じゃないんですか。仲間だから引き連れてきたんじゃないんですか。
レパード王子はそれに留まらず、ご令嬢の襟首を掴んで立ち上がらせて、逆側の頬も叩きました。
一体このひと何してるの。いきなり暴力とか。
「立て!」
「は、はいっ……!」
「ふんっ!」
「ひぃっ!」
もう一度、ご令嬢の頬を叩くレパード王子。
後ろに控えるご令嬢たちは、何も言いません。ここで今まさに、いともたやすく行われるえげつない行為が発生しているというのに、誰一人騒ぎません。
これは一体、何を目的として――。
「ふん……まぁ、これくらいでいいだろう」
「……」
「それで、カーミラ・ヴォルシュタイン侯爵令嬢。随分と顔に傷を負っているではないか」
「殴ったのはあなたですけど?」
自分で殴っておいて、何故そんな言葉が出るのでしょうか。
というか、初めて名前を聞きました。このひとカーミラさんっていうんですね。
その頬は当然膨れ上がっていますし、目元も腫れています。鼻血も出ていますし、頭から少しだけ血も流しています。間違いなく暴力を受けた証です。
「言え、カーミラ。その傷は誰につけられたものだ」
にやり、と笑みを浮かべるレパード王子。
次の瞬間、私の背中を冷たいものが走りました。
「はい……ソフィア・ブレンシア伯爵令嬢によりつけられました」
目の前で、間違いなくレパード王子自身によってつけられた傷だというのに。
カーミラ令嬢は、仄暗い笑みすらその口元に浮かべながら、そう答えました。
そう、これは茶番。
ここにいる全員が、レパード王子によってつけられたこの傷を、私がやったものだと証言するでしょう。
「なるほどな。神聖なる学院で暴力を振るうとは、貴族の風上にも置けぬ! 貴様には、これより法に則り処分を下そう!」
「は、はぁ!?」
レパード王子が勝ち誇った声が告げる言葉が、まるで遥か遠い先から聞こえてくるような、そんな気分。
完全なる茶番の前で。
私は、ルークス第一王子の婚約者という立場を失い。
罪人となることが、決定しました。
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