今日も俺は喪服を着る

紅の熊

第1話幽霊と入学式

"幽霊"それは恐怖の象徴になりうる存在。有名どころだとトイレの花子さんやコックリさんなどだろうか?

そんな幽霊をほとんどの人間がこわがっている。


しかし、怖がってはいるもののその実態を見たものは少ない。だから幽霊は抽象的な表現で語られることが多い。


けど、残念なことに中には霊感が強く幽霊が見えてしまう人もいる。


そんな霊感強めの人間がこの俺、橘徹たちばなとおるピチピチの15歳である。


黒髪が目のちょっと上まで伸びており、邪魔だなと思い始めた今日この頃、わたくしめは今、全力でチャリをこいでおります。


やべぇ!やべぇ!やべぇ!


「入学初日から遅刻はさすがにやべぇ!」

だから幽霊は苦手なんだ。今日だってなんか怖そうなヤンキーの幽霊に目をつけられちゃって、話しかけられちゃったけど 案外いい人で、しかも幽霊になった理由が道路に出てしまった子猫をトラックから身を呈して助けたからだったらしい。彼の漢気に俺は号泣したよ。


てな感じで余裕もって家を出たはずがもう集合時間まで5分と無い。


幽霊が苦手だ。こっちのことを考えずに話しかけてくるし、自分を見てくれる人間が少ないからってめちゃくちゃベタついてくる。俺が小学生低学年の時の事だ。まだ幽霊と人間の区別もできていない時、俺だけにしか見えない幽霊が俺に話しかけてきて、それでつい俺もその話に乗っかちまったんだ。そのせいで俺は気味悪がられて仲間はずれになっちまった。

⋯⋯けど、幽霊は良いヤツらだから嫌いになれないし、憎めないんだよなぁ。


「クッソー!」

そう叫び、全力でチャリを漕ぐしか無かった。


「すみません!遅れました!」

シーン。


俺が勢い良く開けた教室のドアの先には誰もいなかった。俺の声の反響だけが虚しく鳴り響いた。

えーと落ち着け俺よ。


今日の予定は確か、9時に教室に集合してその後9時30分に体育館に行って入学式を始めるんだよな。


そして、今の時間は⋯⋯ちらっと教室の壁に立てかけられている時計を見る。9時40分。


⋯⋯ダッ!と地面を強く蹴り、体育館の方へと向かった。幸い、迷わないように道案内の矢印が所々にあったので何とか最短距離で体育館に着くことが出来た。


「ぜぇー、ぜぇー、ぜぇー」

何とか生徒の列らしきものが見えた。その安堵からその場で膝に手を置いて呼吸を整える。今までチャリで爆走し、学校内を疾走したからか、汗が止まらねぇ。

「うぉ!誰だね君は!?」

「ぜぇー、橘、ぜぇー、徹、です、3組です」

俺は1番後ろのクラスの担任のちょっと強面の先生にそう聞かれ、名前と昇降口前に貼られていた自分のクラスを告げた。


「な!君まさか遅刻してきたのか!?、全く!3組はもっと前だ、そろそろ入場する頃だろうから急げ!」

若干先生に引かれたが、そこは先生、前の方を指さして先へ急ぐよう言ってくれた。


ありがとう、先生、ここで説教させられていたら絶対に間に合っていなかったであろう。


そして俺はまた走り出した、


「先生!3組の橘徹です!遅れてすみませんでしたぁ!」

3組と書かれたプラカードの下にいたスーツをびっしりと着こなし、髪をセンター分けにしているちょっと若めの先生らしき人に深々と、それはもう深々と頭を下げる。


「⋯⋯たくっ、初っ端から遅刻かよ、なんでこうクセが強いんだうちのクラスは⋯⋯まぁいい、今は並べ、後で説教してやる」

初っ端から説教アンド赤っ恥という最悪なムーヴをかました俺はしょぼしょぼと先生に指さされた方向へと歩く。あぁ、廊下のコンクリートの一部になりたい。やば、ちょっと涙出てきた。


「橘徹君ね?あなたの場所はここよ」

「あ、ありがとうございます」

下を向いていた俺に優しく、誘導してくれた女の人の声に従って、列に並ぶ。

「え?君誰に喋りかけてるの?」

「え?」

すると後ろにいたどこにでも居そうな、本当に普通の男子生徒にそう問いかけられた。


嫌な予感がしながらも目に溜まった涙を拭うと、目の前にいたのは宙に浮いている小学3年生位の女児系幽霊だった。


切りそろえすぎたおカッパに赤いミニスカート、そしてシャツをインしたその姿は誰もが知る幽霊、トイレの花子さんそのものだった。



(おい!なんでここにいるんだよ!後ろの普通そうな子に変な目で見られたじゃねーか!)

トイレの花子さん、こいつは俺とは腐れ縁で小学校からの仲である。めちゃくちゃ長い時間一緒に過ごしてきたので最近では喋らなくとも俺の言いたいことが伝わるようになってきた。


「あら〜ごめんなさい気づかなかったわ〜」

花子は握りこぶしを作り、頭にコツンと当てる。

絶対にわざとだ。

(くそ、この年増ロリめ!)

「あ?」

(すんません)

失言だったようだ。


(つーかなんでここにいんだよ?)

「暇だったから」

(それだけ?)

「うん、それだけ」

(はぁーーー、後で暇つぶしの相手になるから入学式終わるまで待ってろ)

「うん分かった、女子トイレで待ってるね」

(せめて、男子トイレにして!)

花子は「きゃははは」と笑って消えていった。


もう、今日は災難な日だ。
















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