『入社式』

「っは!ハァ…ハァ…。またこの夢かよ」


俺には勇者として生きた記憶がある。

所謂、前世の記憶という奴だ。

こう聞くと前世の力を受け継いでいると思われることが多いが、実際は全くだ。

前世の力なんて一つもありはしない。


あるのはこの記憶だけ。


「はぁ…。今日から入社式ってのに…。ったく変な夢見せるなよ」


でも今日からは違う!


俺は憧れの大手芸能プロダクションeternityエタニティにマネージャーとして入社する。

前世の記憶で悩んでいた俺をミライズが救ってくれた。

ちなみにミライズっていうのはeternityのアイドルユニット。アイドルのトップの証ともいえるイースターカップにして三連覇を達成した超伝説のアイドルユニット!


もう解散しちゃったんだけどさ。


丁度俺がミライズにハマったのもこの解散前の最後のライブが原因。

最後に色んな人に見て欲しいからって会場だけではなくネット中継も行ったんだ。


そのライブでリーダーの歩美あゆみちゃんが泣きそうになりながら話始めた。


「私たちはアイドルとして沢山皆さんと過ごしてきました。ですが皆さんと過ごした日々は過去になります。でも!私たちはその過去があるからこそ、次の一歩へと進むことが出来るんです!だからそれぞれ違う道に進む私たちミライズを、最後の最後まで応援してください!」


「アタシはアイドルなんてガラじゃなくて、最初不安でいっぱいでした。ミライズで歩美先輩とカレンちゃんと組むってなったとき、足を引っ張っちゃうんじゃないかって不安で不安で…。でもそんなアタシをみんなは支えてくれた!だから最後はアタシがみんなを支えたい!でも今日で解散…。だから次にくる子たちを全力でアタシはバックアップする!だからみんな寂しがらずにずっと、ずぅっとー!!笑顔で過ごしててくれ!!!」


「ちょっと皆さん?柚葵ゆずきさんと歩美さんに声援が足りなくて?…ふふ。それでこそミライズのファンですわ。…わたくしはミライズで絶対的センターと言われてきましたわ。正直、ものすごいプレッシャーでしたの…。センターで二人を引っ張って皆さんを楽しませなくてはいけない。楽しい日々だけではなかったわ。でもこうして皆さんの前でライブをしたら、とても楽しくて、そんな日々があって今があるんだって思えましたの。ですがミライズは今日のライブをもって解散。きっと皆さんも私たちも楽しいだけの感情じゃなくなる。でもそれでいいと思いますの」


「次にくる新しい子たちに」

「ミライズっていうグループがいたらからアイドルを好きになれて」

「出会うことができたのだと。そう思える日がきっときますわ!だからそれまでは精々私たちがいないのを悲しんでればいいのですわ!」


「じゃあ最後はこれで終わろっか!」

「みんなを一緒にやってくれよ!!!」

「それじゃいきますわよ。せーっの!!!」


「「「未来に羽ばたけ!ミライズ!Ready ~!!!」」」


《GO!!》


このライブを見て、俺は前世の記憶について深く考えなくなった。

ミライズのいうとおり、過去より未来を。

今が辛くてもきっと辛い日々を笑える未来がくるのだと信じて!


そんなミライズが所属していたeternityで、俺は新たな一歩を踏み出す。


目標はズバリ!

ミライズに次ぐ伝説のアイドルをこの手で作り出すこと!!


「よっし!未来に羽ばたけ!俺!Ready ~!GO!!」


滾る気持ちを発散するべく、俺は会社まで走り始めた。

角を曲がった次の瞬間ドンっと衝突してしまい思いっきり尻もちをついてしまった。


「いってぇ…!ってスイマセン!」


慌てて謝りながら立ち上がる。


「…あぁ。こちらこそ前を見ていなか…」


不自然に途切れる言葉に顔を上げると驚愕している男性がそこにいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る