自由の代償 〜それでも〜

 人は自由に生きるべきだ。誰にも制約を受けることなく、大空を羽ばたく鳥の如く自由に。


 けれど現在、己の信条とは正反対に俺の身体には重りがついていて、十分に動けなくなってしまっていた。


 「ぐっ…!ふぅっ…!」


 俺は今『エデン』に向かい歩いている。しかし、単に歩を進めるだけで額に脂汗がにじみ、足が悲鳴をあげるのだ。何せ身体についた重りの重さは、100キロをゆうに超えているのだから。


 「どうして重りがついているのだ、お前は大罪人なのか?」と、誰かから問われたとしたら、返事はまごうことなく「YES」である。俺は過去の俺が犯した過ちによって、こうして罰を背負うことになった。


 「ひぃっ…、ひぃっ…!」


 息も絶え絶えに歩き続けていると、道すがらに人々がこちらを振り向き、蔑む目で見てきた。確かに自分の姿は物珍しく、また卑しくもあるから、見下げてしまう気持ちもわかる。


 ──だが、見下すアンタらよ。自分は傍観者だと油断するなよ。罪への誘惑はそこら中にある。あそこまで堕ちはしないと思っていても、己の慢心が少しずつ重なっていって、いつの間にか取り返しがつかなくなるんだ。罪を犯すのは簡単だ。だがあがなうには数倍の苦しみが伴うんだ。いいか、気をつけろよ。


 そう内心忠告をしてやっていると、ついに目的地が見えてきた。


 しかし恐ろしいことに、ここまでを距離にしたらたかだか300メートル。あの地獄の道のりが、たったの300メートルなのだ。


 「はぁっ…、はぁっ…!」


 俺は歯を食いしばって、『エデン』の入り口へ向かう。既に汗だくで、もう動く気力も残っていないが、それでも気持ちでなんとか、前へ前へと進む。そうして近づくと、『エデン』の扉は寛大に俺を迎え入れたのだった。


 「やっと着いたんだ…!」


 俺は安堵して目に涙を浮かべ、重い身体を引きずって『エデン』へと入っていく──。




 「ッラッシャ-セ-」


 ──店内に入るなり、店員からお決まりの挨拶が飛んできた。…はぁー疲れた。遠いよ、コンビニ『エデン』。商品棚の冷房が、火照った身体を冷やして気持ちいい。太っちょな俺にとってここは、まさに『天国エデン』でもあるのだ。


 さて、何買おうかな。おにぎりにパンにコンビニスイーツ、ラーメンにパスタに蕎麦に冷凍食品にアイスにお菓子に──。


 ……俺は今日も自由に食を求める。脂肪という名の重りがいくらついても、暴食という大罪をどれだけ犯そうとも、俺の自由しょくよくは、誰にも止めることは出来ないのだから。

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